小説
本番
最悪だった
あのHAYATOに
いや、一ノ瀬トキヤに会ってしまったのだ
EYEの時なら何度もあっていた
けど、この姿で会ったのは始めてだった
しかも彼の前で情けなくぼろぼろと泣いてしまい
とっさにハンカチをもってきてしまった
彼に返さなきゃ
そして、家に帰った時に気付いた
楽譜も、置いてきてしまった
多分、彼の手の中にあるだろう
はぁ、と大きくため息をついた
どうしよう
まぁあの曲は没をもらった曲だから無くなっても問題は無いのだが
そして、明日に控えているSTA☆RISHとのバラエティが憂鬱でしかたなかった
こんな憂鬱な気分で明るいEYEの曲なんか作れるのか
期限はこちらも明日までだ
作りかけの楽譜を開いて音符を綴っていく
気分が乗らなくても、偽物の曲は作りたくなかった
偽物じゃない、
私の中にあるEYEと同じ部分を探し出して音にする
けど、きょうはそれが難しくて
いつもならできる事も今日は音になってくれなかった
じわ、と再び涙が溢れる
泣いてたらだめだ
目が腫れてしまう
机に向かっててもなにも出てこないからお風呂にはいる事にした
お気に入りの入浴剤を使ってゆっくりお湯につかれば
このぐちゃぐちゃな気持ちもお湯に溶けてくれるかもしれない
□
どうにか曲ができた頃にはもう外は明るくなりはじめていた
もう家をでなきゃ、
HAYATOから引き継いだおはYAHOOニュースの収録時間だった
ヘアメイクは向こうでしてもらえる、
EYEの私服に着替えて家をでる
寝不足でもあのテンションまであげなければならない
ビタミン剤を飲んで少しでもテンションをあげる
タクシーにのって現場に到着後するとすぐにヘアメイクと今日の収録の確認がはじまる
「 アイちゃんちょっと目腫れてるね、よくねれなかった? 」
といつものメイクさんが聞いてくる
腫れてしまったのか、
『 腫れてますかー、昨日アイの新しい曲一緒に作曲の人と一緒に考えてたらすごい盛り上がっちゃって! 』
「 アイちゃん新しい曲出すんだー! 」
『そうなんです!すっごい元気でる曲なんで絶対聴いて欲しいです 』
語尾に星とかハートマークがつきそうな甘ったるい元気なしゃべり方で対応するが
目が腫れてしまった、というのはプロとしてだいぶ落ち込む
しかし、そんなことは一切表に出さず
本番が始まる
「本番5秒前4・3・2…」
その声と手の動きに合わせて
頭の中で今日の流れ、
私の、いや、アイの声のトーン、笑顔を確認する
『全国のみんな、おはやっほー!今日もアイは元気です!みんなも元気ですかー?』
いつも通り、
元気で甘ったるい声とともに本番が始まった
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