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 会長はシャツを羽織り、ボタンもろくに留めないまま1番豪華な席に座っていた。おそらく会長席であろうそこに足をあげて踏ん反り返るのはよくないと思うよ。ってかやめなよ。なんて口が割けても言わないけど。

 会長はコーヒーを一口含むとゆっくりと再び俺に視線を向けた。


「起きたな。」

「ご迷惑をおかけしました。」

「あぁ、本当にな。いきなり掴みかかってくるわ、ぶっ倒れてるわで面倒だったぜ?」

 いったん言葉を切った会長は机の上から足を退かしコーヒーカップを机に置くと、肘をついて口の前で手を組んだ。


「……赤い眼、」

 ポツリと呟かれた単語に反応する。

「…その節は申し訳ありませんでした。気が動転して、」

「は、アレがか?お前は気が動転すると手刀突き付けてくんのかよ。あん時のてめぇの台詞、そのまんま返してやるよ。


 …てめぇは何者だ?」


 会長が俺をじっと見た。その眼は鋭く俺を睨みつけている。


 ごまかすことができるだろうか。


 …今更数時間前の出来事が気が動転したぐらいで済まないのは分かっていた。あの時の俺は意識があるようでなく、自分が言ったことや行動、目にしたものをはっきりと覚えて分のやったことを思い出して悪態をつきたくなった。


「…噂通り、オタクか。それとも編入試験を満点で通った根暗か?」

「……普通の、どこにでもいそうな平凡ですよ。」

 努力型なんです、と付け加えた。

「前髪長いし、今時分厚いレンズの黒縁メガネ、背は………まぁ平均的か。で、顔は平凡。」

「………。」

「じゃあ、あん時の殺気はなんだ。」

「………」

「俺でさえ立っていられなくなりそうな、厚く重いあの威圧感。ただの平凡がそうそう出せるようなもんじゃねぇ。」

「………」

「……おい、だんまりか?」


「……………赤い眼に、嫌な思い出があるんです。他の人にとってはお洒落で済むようなものですが、赤い眼だけは嫌いなんです。」

 出来ることなら赤いカラーコンタクトレンズなどつけないで欲しい。赤いインクよりも赤く、血液よりも薄い、赤。そんなものこの世から無くなって欲しいほど、俺は見たくなかった。

 赤い眼など。


「……もういいわ。帰れ帰れ。」


 何この俺様。

 会長が手でしっしっ、と払う。

 ってかもっと追求されると思ったのに。帰っていいのか…?

「顔が良ければ抱いてみようかとも思ってたんだが、オタクは無理だ。オラ、用はこんだけだ。さっさと失せろ。」

「………失礼しました。」

 何、それ。

 抱く、とかっていう単語が聞こえた気がするけど。

 やめてくれ。
 こっちから願い下げだよ、俺様会長。

「霧島、」

「はい?」

「………てめぇが何者だかは知らねぇ。だが俺は絶対正体暴いてやる。必ずな。」

「っ、?!」

 パタンと後ろ手にドアが閉まった。


 正体を暴くと宣言された。

 会長の言葉に背筋がゾクリとした。きっと俺は彼につけまとわれるのだろう。一般が手に入れられる情報など、たかがしれてる。結局は直接聞きに行くな、あいつ。

 でも、………確かアイツ、佐々木 圭とは夜の街でも会った気がする。あの容姿、纏う雰囲気に覚えがある。

 「ま、いいか。」

 

 俺は誰もいないことをいいことに、赤絨毯の敷かれた廊下で伸びをした。

 目を閉じる。

 開ける。


 さて、寮に帰って情報収集でもしますか。




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