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:3:泉視点(柊海)







「あれ?あなた…」


笑っていた小都の後ろから現れたのは監督の百枝だった。

小都が気づいてすぐにお辞儀をする。


「橘小都と申します。泉と馬鹿がお世話になってます。」


「馬鹿っておれだよなー」と苦笑する浜田。

「泉の姉ちゃんみたいだな」と田島が笑いながら泉に言う。


「もしかして、浜田君が言ってた子って…」

「あ、はい!こいつです。」


言ってたって何?と小都が浜田を見上げる。

まぁまぁと宥めるような姿に百枝は何も話してないんだなと察した。


「うち、ピッチャーマシン古いでしょ?それであなたの力を借りようと思ったの。」


その言葉に般若のような顔で後ろにいる浜田を睨む。

それをみてしまった三橋がビクッと栄口と阿部の後ろに隠れた。

「頼む!」と浜田が手を合わせて頼み込む。


「あのね、私がいつから投げてないとお思いで?アンタが野球やめてからでしょ?」


下からの強烈な睨みに浜田は「うぅ!」と退きそうになったが、ここは引けない。


「すぐにとは言わないから、ゆっくり考えてみてくれないかしら?」


百枝が小都の手を握る。阿部や浜田にやったように百枝ががっしりと握る。

急なことで小都がビクッと驚き、目をパチクリさせる。

驚くよなと浜田と阿部は心の中で思った。


「あなたのこと頼りにしてるの!!」


(反則だ、この人!!)


こんなキラキラした目で見られちゃ、断れないじゃない!と小都は思いつつ、もっとも考えていたのは美人だなということだった。

「考えさせてください。明日、また来ます。」と小都が笑う。


「わかったわ。浜田君、今日は小都ちゃんと帰っていいよ。」


小声で「帰り道に猛アタックかけてね!」と念を押されてしまい、言い換えすこともできなかった。

二人が帰った後、部員たちは小都が来るか来ないかを話していた。


「来るよ。あの人は来る。」


確信を持った声で泉が言う。

部員たちは泉の発言に首をかしげながらも、それならいいなと思った。











浜田の自転車に乗せてもらい、流れる景色をずっと眺める。


「今日、ごめんな。ちゃんと話してなくて。」


前から浜田の声が聞こえてくる。

小都は浜田の腰の辺りに寄りかかりながら答える。


「アンタが留年するって言ってから、こうなるだろうことは予想してた。」


小都の乾いた笑い声が風に乗る。

小都は右手を見ながら答えた。


「もう一度、俺たちと目指してみようぜ!」


小都は聞こえないフリをして、浜田によりかかった。

家の前に着き、浜田の自転車から降りる。


「やるよ。野球部の手伝い!」

「マジで!?あいつら喜ぶよ!」


泉に報告しよーと!と携帯を取り出す浜田に小都は続けた。



「浜田は?」


「え?」


「浜田はやらないの?」



不安そうに言う小都に浜田は苦笑する。

一年以上たった今でも彼女は俺の腕の心配をし、野球のことを尋ねてくる。

俺はどんなヤツよりも幸せ者だと浜田は思った。


「俺のことはいいの。それに俺は全力であいつらにやれることはしてやりたいと思ってる。」


だから、小都の力が必要なんだ。




まっすぐこちらを見てくる浜田に小都は更に言葉を続けた。



「泉も思ってることだと思うけど、野球、やりたいならいつでも入部し!」



「だーめ。」と浜田が小都の言葉をさえぎるように頭に手を置く。



「俺はあいつらを応援するって決めたんだ。…それは今関係ないことだろ?」

「…ごめん。そうだった。」



しゅんとする小都に浜田が我慢しきれないというように抱きつく。



「俺こそごめん。こんな身勝手で。」

「本当にね。」



そこは否定しようぜと浜田は笑う。

この時間をなくしたくないなと小都は浜田に笑いかけながら、ぎゅっと力を込めた。










次の日の放課後、パン!といい音が第二グラウンドに響き渡る。

「いるよ。」と意外そうに誰かが呟いた。

泉は「当たり前だろ。」と笑った。

小都は身軽な格好をして、マウンドに立っている。

キャッチャーには浜田が座っていて、計測器を持った百枝が部員たちにこっちに来いというように手招きする。

計測器が見えるように部員たちは移動する。

今投げた球は100キロ。


「110で投げてくれる?」


百枝が何を言っているのかわからなかったが、すぐに答えはでた。

小都が投げた球の速度は110キロに近い速度だった。

百枝は速度を上げていくように指示する。

どんどん上がっていく速度に部員たちは目が釘付けになる。


「120…っ!」


浜田の構えるミットからパン!といういい音が聞こえてくる。
田島の目が小都に注がれる。

打ちたくてしょうがないとでもいうように。


「浜田!どいて!MAXで投げるから!」


その声に浜田が横にずれ、百枝の隣に移動する。

ガシャンと音を立てて、球除けが後ろにずれ、その勢いで倒れた。


(久しぶりのMAXで133…こりゃ、女の子にしては良い肩しすぎだわ!…でも、MAXはどこにいくかわからないから投げられないってことね)


速度を測っていた百枝が感激して身をふるわす。

小都を見ていた阿部が「チッ」と舌打ちした。

それに三橋が驚いて、一歩下がる。


(なんだ、あの女。あの野郎と同じじゃねぇか。)


明らかに機嫌が悪くなった阿部に三橋は怯え、更に阿部から離れる。

栄口たちが「どうしたの?」と心配そうに三橋を見る。


(あ、阿部君、こ、怖い!!橘先輩に怒ってる?で、でもなんで?こんなに速い球投げるのに…)


投げ終わり、満足したように腰に手をあてながら、にかっと小都が笑う。

そこに浜田が走って近寄り、二人でわいわいはしゃいでいる。

二人のあの姿を見るのは一年以上も前のことだと泉は思った。

浜田が投げなくなってから彼女も投げるのを止めてしまったが、まだまだあの当時のままだ。

泉が見ていたのに気づいたのか、小都が大きく手を振ってくる。

泉も軽く手を振り返すと、浜田もふざけて振ってくる。

こちらが苦い顔をすると、小都が浜田に気づき、エルボーを食らわした。


「…変わってねぇな…」


泉は中学時代を思い出しながら、小さく笑った。

それでも気をつけないとあのころの想いが溢れ出しそうだった。

「変わってないって、中学時代も投げてたのか?」と花井が後ろから聞いてくる。

花井に驚きつつも、泉はすぐに思考を変えて、花井に笑顔を向ける。


「俺たちのマネージャーで、よくあぁやって練習してたんだ。」


「あんときは必死だったからな。」と泉は中学のころを思い出すように、小都をみつめた。








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