:2:(葉桜 初)
「「先輩?」」」
「そ。」
「橘 小都でーす!」
その後、再び浜田を沈めた小都がにっこり笑って挨拶した。
「「「……ちわーっす!!」」」
名前を聞いたところで、部員は改めて脱帽する。
そんな部員を一人一人眺めていた小都は、ある一人に視線を止めると、更ににっこり笑った。
「君、可愛いね」
「フヒッ!?」
目を止めたのは三橋だった。
小都が三橋に近づこうと一歩踏み出したところに…
「「ストーーーップ!!」」
再び復活した浜田と泉が小都の肩を抑えて止めた。
「橘先輩、それはちょっと!!」
「早まるな!!相手は投手だ!!」
なにがなんだかわからない部員一同と、とりあえず三橋を背に庇う阿部。
「せめてクソレでお願いします!!」
「え!?オレ!?」
「そーだよ!!水谷も結構イケると思うぞ!!」
「何が!?」
どーぞどーぞと背中を二人に押された水谷は、小都に下から上までじっくりと観察される。
その視線に水谷は言葉を詰まらせた。
「君…もしかしてお姉さんいる?」
「います、けど…」
水谷の言葉に浜田と泉が小さくガッツポーズをしたのを、水谷と小都以外はしっかりと見ていた。
「はいはーい!オレも姉ちゃんいるー!!」
「お前は黙ってろ」
元気よく手を挙げて言う田島の手を泉が思いっきり下げさせる。
「ポニーテール…いや、この場合は普通にロングか…さらに緩いパーマをかけて…」
ブツブツ何か言っている小都に水谷は首を傾げる。
「うん、よし。君にはコレだ!」
そう言って小都は水谷の頭に何かを被せた。
「え?」
「「「ぅげっ!!?」」」
「うん、完璧っ!」
何処から出したのか、小都が水谷に被せたもの、それはロングのカツラだった。
色素が薄く、サラサラと風になびくソレは、こういってはなんだが、水谷に良く似合っていた。
何をされたのか未だ把握できていない水谷を他所に、他の部員は顔を真っ青にした。
「な、なんだよ皆して〜!!」
「はいっ」
部員の反応にただただ困惑する水谷の前に、小都は手鏡を取り出した。
「え…ぇぇぇえええええ!!?」
「ぃやんっ可愛い!!」
「え!?ぇえ!?な、なんで、オレっ…ぇええ!!?」
頬に手を当て、自分の満足する結果に惚れ惚れする小都。
水谷はというと、自分の今の状況に大混乱。
部員たちに顔を向ければ、皆が皆、それこそ三橋や、さっきまで騒いでいた田島ですら顔を逸らす始末。
頼みの綱である泉と浜田にも顔を向けるが、掌をこちらに向けて顔を逸らし、完全にシャットアウト状態。
そんな中…
「こんにちはー!」
今の水谷には死刑宣告に聞こえたであろう。
マネージャーの篠岡がグラウンドに入ってきた。
「あれー?皆どうした…の…」
部員が集まっていることに気付いた篠岡は皆の元へ駆け寄り、見つけてしまった。
「…………」
「あ…は、はは…」
色素の薄いロングの髪をなびかせた、女の子(※水谷)。
水谷はなんとも引きつった苦笑いをした。
「かっ…」
「え?」
「可愛い〜〜〜っ!!!こんなっ!
ぇええ!!どこのどちら様ぁ!!」
(((ぇぇぇええええ!!?気付いてないぃぃ!!?)))
ピシリッ篠岡の言葉に水谷が固まった。
まるで廃人のようだ。
「わぁ!!なんでこんな可愛い子が此処に!?もしかしてマネジ希望ですか!!?」
水谷を完璧に女の子と勘違いしている篠岡は大興奮。
ここで…バタリ水谷があまりのショックに倒れた。
「ぅわあ!?」
「水谷!!」
「大丈夫かぁ!?」
「傷は浅いぞ水谷っ!!」
倒れた水谷を部員総出で助け起こす。
「え?水谷、くん?」
部員たちが呼んだのは、確かに仲間である背番号7番の名前。
篠岡はもう一度しっかり女の子を凝視した。
「ぅん、オレだよ…しのーかぁ…」
女の子が発した声はやっぱり彼のもの。
「み、水谷くん!?わ、私っあの、ごめんなさい!!
あまりに似合いすぎてて…!!」
グサッ
「わーー!!水谷ぃぃ!!」
「しっかりしろー!!」
篠岡の素直で純粋な言葉の刃が水谷を突き刺した。
「あははははっ!賑やかだねぇ!」
そんな中、小都は慌てふためく野球部員たちをケラケラ笑いながら見ていた。
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