【 人間万事塞翁が馬 】
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どうでもいいことだが最早尿意などは消し飛んでしまった。
どういうことだ。
朝起きたら女になっていた。
夢じゃない。だって今額が割れそうに痛いから。
「歩、ちゃん・・・?」
呆然とへたり込んだ俺の後ろから物音が聞こえたと思いきや。慣れ親しんだ声で名前を呼ばれた。
バッ!と音がするほど勢いよく振り返れば、物心つく前から一緒に過ごしてきた幼馴染で従妹の遥香が、これまた呆然とこちらを見下ろしている。
見るからに開いた口が塞がらない、といった様子だが、ちゃんと口元に手を当てて隠しているあたり、さすが女の子だなぁと思う。
・・・果てしなくどうでもいいことではあるが。
「女、の子、に・・・?」
常識で考えればなるはずがないのだが。
奈何せん目の前の俺はどこからどう見ても女の子だろう。
自分は夢だと思い込んでいたけどもさ。
・・・アレ?それにしても。
「遥香?俺もおかしいけどさ。なんでお前ここにいるの?」
いくらお向かいさんとはいえ、こんな朝早くから、しかもパジャマのままでいるはずがない。
髪の毛も若干はねているから寝起きであることは間違いない。
昨日は泊まりに来ていなかったはずだけど。
「まさか・・・じゃあアレはもしかして・・・?」
ふと遥香の方を見上げれば、遥香は考え込むように下を向き、驚くほど真剣な表情でつぶやいていた。
「アレ?アレってなんだ?・・・遥香?」
てゆーか!!だからなんで俺は女になってるんだよ!!ありえねーだろーが!!
俺の声に反応したのか、遥香はバッと顔を上げ、少しおびえた表情を見せるとくるりと後ろを向き、洗面所から走って出て行ってしまった。
え?どーゆうことなわけ??
考えれば考えるほど混乱してしまう頭を落ち着かせようと深呼吸。
スー、ハー、スー、ハー、・・・よし!!
とりあえず、遥香の後を追いかける。
洗面所を出ればやはり見覚えのない広いリビングへと出た。
無駄に高機能そうなシステムキッチンの反対側には大きな薄型液晶テレビ、ガラスのローテーブル、そして遠目にも高級そうな重厚なソファーがセンス良く置かれている。
部屋の角には大きめの観葉植物が置かれ、鮮やかな緑を見せていた。
「・・・一体どこの金持ちだよ」
え、ちょ、まさか不法侵入とかじゃないよな!?だって起きたらここにいたんだし!
あれ、でも部屋は俺の部屋だったような気がするんだけど?
「歩ちゃん・・・」
呆然と意識を飛ばしていた俺に再び遥香から声がかかった。
遥香はローテーブルの前に立ち尽くしている。
手にはなにやら手紙のような書類のようなものを持ち、それを食い入るように眺めている。
遥香の顔色は心なしか青ざめて見えた。
「遥香?お前大丈夫か?・・・何見てんだ、それ?」
遥香の顔色が悪いならば、俺は性別が変わっているのだから、比べなくても俺の方が問題ありと言えるのだろうが。
まあ俺は体調に関して言えば問題はない。・・・と思う。
遥香はこちらを窺うように目を向ける。
目がやはりおびえている、無理もない。
何せ知り合いの性別が一晩で変わってしまったのだから。
てか、なんで俺はこんなに冷静なんだよ!
「・・・め、なさ」
消えるような声で遥香が何かつぶやいた。
改めて遥香の顔を覗き込む。
「歩ちゃん、ごめんなさい・・・」
巻き込んじゃったみたい。
意味のわからない遥香の言葉に、
俺はポカンとしたアホ面を晒すことしかできなかった。
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