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Chemical Wizard
静かな叱責


組分けの後、ダンブルドアから諸注意と新任の先生の紹介があった。
諸注意はともかく、書店での出来事で印象が地に堕ちたロックハートの紹介など、ユーリには聞く気がない。
頼まれもしないのに立ち上がって自己紹介を始めたロックハートの声を聞き流し、ユーリは金のゴブレットを指で弾いた。




ようやくロックハートの無駄話が終わり、目の前の大皿にごちそうが現れた。
左隣のジョージがユーリの皿に山を作り、ユーリはそのうち三分の一をジョージの皿に押しやってから、いただきますと手を合わせた。

「俺はユーリ・ゼンヤ。ジニー、改めて言わせてもらうよ、入学おめでとう」

「ありがとう、ユーリ。私、あなたのことよく知ってるわ。すごく頭がいい、きれいな人だって」

「……フレッド、ジョージ、お前らはなんて説明したんだ?」

「本当のことを言ってるだけさ」

「おれたちだけが話してるわけでもないしな」

「真面目だってパーシーが話してたし」

「ロンは女の子みたいだって言ってたな」

「おれたちはただ、グリフィンドールにはスネイプさえ魅惑する姫君がいるって言っただけさ!」

「…………」

思わず頭を抱えて突っ伏すと、慌ててジニーが謝る声がした。









歓迎会が終わり、生徒はそれぞれの寮へ向かった。
ジニーはすっかりユーリに慣れ、グリフィンドールへの道中はずっととりとめのない会話をしていた。

談話室でジニーと別れ、男子寮への階段を昇ると、去年も使っていた部屋のドアには「二年生」と書かれていた。
まだ誰もいない部屋に入り、一番奥のベッドへ身を投げ出すと、ユーリの身体はスプリングで弾み、柔らかな毛布に沈み込んだ。
急激に瞼が重くなったが、着替えなければと思い、ノロノロと起き上がった。
普段は引いておくカーテンをそのままに、あくびをかみ殺しながら着替える。

ローブとその下のシャツをベッドに放ったところで、階段を駆け上がってくる音がした。
慌ててシャツを羽織ると、ドアがパッと開いてハリーとロンが入ってきた。

「僕、ほんとはあそこで喜んだりなんかしちゃいけないんだってわかってたんだよ。でも……あっ、ユーリ」

「久しぶり、二人とも。どうして歓迎会にいなかったんだ?」

「えっと、それは……」

ロンが一瞬口ごもったその時、同室の三人が部屋に雪崩れ込んできた。
口々に二人を讃える三人に、ハリーが思わずといった様子でニヤッと笑った。
状況を理解していないのはユーリだけで、眠気で回っていない頭が混乱を極めている。

「どうしたんだよ、ユーリ。もしかして、二人の話を聞いてないのか?」

「これから聞くところだ。二人とも、何をしたんだ?」

「僕たち汽車に乗れなくてさ、パパの車を使ってホグワーツまで飛んできたんだ」

「……何だって?車で、飛んで?」

「飛んできたんだよ!しかも着陸したのはどこだと思う?あの『暴れ柳』だぜ!」

シェーマスが興奮してそんなとんでもないことを口にした。
二人のしたことがいかに勇敢かを滔々と語るシェーマスから目を逸らし、ユーリはハリーとロンを見る。
あまりにも衝撃的すぎて、開いた口が塞がらない。

「……わざわざ『暴れ柳』の近くに着陸したのか?危険だと分かりきってるだろうに」

「狙ってそこに行ったわけじゃないんだよ。車がくたびれてて、その、墜落したんだ」

「……ハリー、ヘドウィグはどうしたんだ?おじさんの家に置いてきたのか?」

「ちゃんと連れてきたよ。ホグワーツに着いてから飛んでいったけど」

「……なるほど」

ユーリは立ち上がり、二人に歩み寄る。
困惑する二人は、夏の間にまた背が伸びたようだ。
以前は拳一つ程度だった身長差が開き、ユーリの背は二人の鼻先に届くか届かないかくらいになっている。
しかし、盛大に眉を顰めているユーリを見て、二人は肩を縮めた。
そんな二人に気づくことなく、シェーマスがユーリに言葉を投げかける。

「このことはホグワーツの歴史に残るんじゃないかと思うよ。ユーリも、すごいと思わないかい?」

「全く思わないな」

ユーリは一言で切り捨てた。
不満げに口を尖らせたシェーマスだったが、ユーリの表情に気づき、慌てて口を噤んだ。

真正面から向き合っているハリーとロンは、唇を引き結んだユーリの視線から逃れるように口を開く。

「……その、僕たち九と四分の三番線に入れなくて、慌ててたんだよ」

「慌ててたといっても、もう少し考えてから行動すべきだった。入れなかったことそのものは君たちの責任じゃないだろうし、ふくろう便さえ送れば、きっと先生方は対処してくれただろう」

「それは……うん、さっきマクゴナガル先生にも言われた」

「……で、『暴れ柳』に突っ込んだんだっけ?あの貴重な木に?いったいどれだけ痛めつけたのか……」

「ユーリまでスネイプと同じこと言うのか!?僕たちの方がよっぽどひどい目にあったんだぞ!」

「『ひどい目』じゃすまなかったかもしれないと、分かっているのか」

声を荒げることもなく、淡々と述べたユーリに、ハリーとロンだけでなく、後ろで様子を窺っていたシェーマスたちも身体を硬直させた。

「墜落したんだろ?それが『暴れ柳』じゃなくて、城の壁だったら?汽車が来る直前の線路だったら?医務室のベッド送りならまだしも、命を落としていたかもしれないんだ」

二人して肩を縮こめていることに気づき、ユーリは一度大きく息を吐く。
しかし、説教はまだ終わらせない。

「もう一つ言っておく。ロン、車はお父さんのものなんだろう?多分キングズ・クロス駅にもその車で来たんじゃないか?」

「うん……」

「駅を出てみると、車がなくなっていた。さて君の両親は何を考えるだろうな?」

ロンの顔がサッと青ざめた。
何を考えたかは分からないが、ユーリはそれ以上追求、もとい追い詰めるのは止めにした。

「談話室ではよっぽど持ち上げられたんだろうけど、君たちのやったことは決して褒められたことじゃない。ちゃんと反省しろ。一度の浅慮な行動が、自分や他人を不幸にすることなんて珍しくないんだから」

「……分かった」

「ごめん、ユーリ」

「だから、俺に謝っても仕方ないことだ。謝るなら両親に謝っておけ」

大きくため息をついてから、うなだれる二人と、壁際に張り付いていた三人をベッドに追いやった。
ユーリに怯えたように、五人が足早にそれぞれのベッドへ向かう。

ユーリもベッドに戻ろうとしたが、ロンに引き留められた。

「ユーリ……これ、直せない?」

「何だ?」

おずおずと差し出されたのは、折れた杖だった。

「……もしかして、墜落した時に?」

「うん……どうにかならないかな?」

ほとんど真ん中から折れてしまっている杖を受け取り、あちこちから眺める。

折れた先は辛うじて繋がっているような状態で、もともとはみ出ていたユニコーンのたてがみはもはやむき出しだ。
おそらく杖としては致命傷で、ど素人のユーリがどうこうできるものではない。

それらを正直に伝えると、ロンはがっくりと肩を落とした。

「でも僕、それしか杖はないんだ。代わりを買ってくれなんて言っても、ママは聞いてくれないよ」

「できる限りのことはしてみるけど……期待はしないでくれ」

「ありがとう、ユーリ」




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あきゅろす。
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