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Chemical Wizard
紅い特急列車


「いいか?何かあったら俺に連絡しろよ?アンバーに手紙を持たせれば、すぐに行くからな!」

「分かった……分かったから」

しつこいくらい念押しするアレスに辟易する。

九月一日、ユーリはアレスにキングズ・クロス駅に送ってもらった。
出発は十一時だが、アレスに予定があるということで、十時二十分にはたどり着いた。

そして、九と四分の三番線で特急を前に、アレスが謎の不安を募らせた結果、現在に至る。

「アレス、俺は大丈夫だよ。それに、そろそろ時間じゃないのか?」

「う……」

「……ちゃんと手紙を送るよ。何かあったらじゃなく、定期的にさ」

アレスの顔がみるみるうちに明るくなった。
どちらが子供か分からない。

「俺も手紙を書くからな!」

「分かったから……早く行きなよ、本当に間に合わなくなる」

「うお……じ、じゃあ、行くな!ユーリ、楽しんでこいよ!」

時計を確認して慌てたアレスは、大きな音を立てて消えた。
その姿を見送り、ユーリは踵を返した。

まだ人がまばらなホームを横切り、後ろの方のコンパートメントに入る。
荷物が重すぎて持ち上がらず、覚えたての魔法を使ったことはご愛嬌だ。

コンパートメントに入って一息つくと、ユーリは荷物に手を伸ばした。
左腕にグローブをつけると、鳥籠から鷹を出して腕に留まらせる。
スルリと背中を撫でれば、気持ちよさそうに目を細めた。

琥珀色の瞳から取ってアンバーと名付けたその鷹は、ハイタカという種類らしい。
ユーリの手に擦り寄る姿からは、店員の言っていた凶暴性を欠片も見出せない。

「アンバー、多分アレスの元に何度も行ってもらうことになる……。よろしく頼むよ」

そう声をかけると、アンバーは返事をするように喉を鳴らした。

そのまましばらくアンバーと戯れていると、プラットホームに人が増え始めた。
列車内にも人の気配が感じられる。

しばらく喧騒を眺めていると、不意に欠伸が漏れた。
昨日は教科書を読み耽ってしまったため、あまり寝ていない。
膝の上のアンバーの温かさも、睡魔を煽る一因となっている。

出発まですることもないため、ユーリは寝ることを決めた。
アンバーを抱え直して目を閉じれば、すぐに意識は沈んでいった。



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