06 医師と話した結果、ハンジの言うように一時的な記憶喪失だということでおさまった。 私は前回の壁外調査のことを、何も覚えていなかった。 どういう風に怪我を負ったか、ということだけじゃない。 私は、私自身の部下のことも忘れてしまったのだ。 壁外で亡くなった私の班の人達。 今まで一緒に活動してきて、思い出もたくさんあったであろう人達のことを、なにも思い出せなかった。 思い出そうとすると、リヴァイと呼ばれていたあの人を前にした時のように、頭が痛くなる。 医師は、壁外調査で負った身体の傷と連鎖するように、心にも深く傷がついたのではないかと憶測した。 その傷口を塞ぐように、怪我を負ったあたりの記憶を消してしまったんだろうと。 だから、そのあたりの記憶にいたリヴァイという名の彼も、忘れてしまったのではないか、と。 そんなことってあるんだ、と他人事みたいに不思議に思った。 一時的なものだとは言っているけれど、正確にいつ思い出すのかは分からないらしい。 ということはきっと、この先何も思い出さないという可能性もあるかもしれない。 彼のことを思い返す。 彼のさっきの接し方から、もしかしたら私達はそれなりに話す仲だったのかもしれない。 そういえば、私を助けてくれたのは彼だとかハンジが言っていた気が……。 なのに忘れてしまったなんて、言われた方はどう思うだろう。 私だったら決していい気分ではない。 彼に対する罪悪感が大きく膨らんだ。 「ハンジ」 「ん?」 「あのさ、リヴァイ…兵長、と私って、どういう関係だったのかな。よく話す仲だった?」 確か彼は兵長と呼ばれていたな、なんて思い出しながら、近くにいるハンジに話しかける。 すると彼女は口を開け、ぽかんとした顔をした。 「ええっと……誰だって?」 「だから、私とリヴァイ兵長」 「ぶはっ!」 ぽかんとした顔から一転、ふき出した。 そして笑い出す。 いきなり何事かとびっくりした。 「な、何っ?」 「あはははっ、いやいや、***がリヴァイ兵長って言うからさ!」 「え、だって彼は兵長なんだよね?」 ペトラは兵長と呼んでなかっただろうか。 自分の記憶に自信が持てなくなる。 ハンジは何かツボに入ったらしい。 まだケタケタ笑っている。 「まあ、ね。そうだけど、でも***がリヴァイに"兵長"をつける仲じゃなかったよ」 「そうなんだ」 「そうそう! そういう上下関係は全くなくてさ、私達みたいな感じだよ」 ……ということは、私と彼は、私とハンジのように気兼ねなく話し合える関係だったのだろう。 なんだか忘れたことに申し訳なさが募る。 「今度リヴァイに会ったら兵長って呼んでみなよ。目玉がカッてなると思うよ」 それ見たいなあ〜その時呼んでよ、なんて、ハンジは明らかに面白がっている。 でもそんな彼女を見て、少しずつ気持ちが明るくなっていった。 ただ、彼女に言われた通り実践して、後悔したのはまた別の話だった。 *backnext# [戻る] |