03 *(リヴァイ視点) 「左翼前方索敵班が、ほぼ壊滅状態です」 馬を走らせ伝えられたその内容に、一瞬周りの音が聞こえなくなった。 何を言ってやがるこいつは、と思った。 と同時に、数分前に上がった黒い煙弾を思い返した。 煙弾が上がったのは、まさしくその左翼前方索敵側──***のいる方だ。 あの周辺で、***は奇行種相手に戦闘態勢に入っているはず。 黒い煙弾が風に流れるのを見ながら、馬を走らせる。 ***には***の仕事があるし、俺には俺の仕事がある。 ここで俺が勝手な行動を取れば、近くにいるこいつらを死なせてしまう危険性がある。 分かっている。 壁外では常に冷静に、時に非情にならねば多大な犠牲を払うことになる。 分かっているのに、思わず出る舌打ち。 再び左翼前方側から上がった複数の煙弾に、自然と手綱を握る力が強くなる。 あいつも腕はある。 そんな簡単に死ぬはずない。 そう思っていたのだが── 「壊滅、だと?」 睨みつけながら伝達係りにそう問えば、そいつは小さい悲鳴をあげ、はい……と蚊の鳴くような声で返事をした。 とその時、一つの煙弾が空を貫くように上がった。 撤退だ。 話はきっとエルヴィンにも伝わったのだろう。 「お前ら、撤退態勢に入れ。ここからはエルドに指揮を託す」 部下にそう告げ、手綱を引いて方向を変える。 後ろで驚いたように俺の名前を呼んでいるが、その声を背に馬を走らせた。 「……ひでぇな」 着いた先は、無数の亡骸と鼻をつく臭いが立ち込めていた。 人間のものもあるし、巨人のものもある。 巨人の死体が発する蒸気と、草にこびりついている血や肉片。 その光景が辺り一面を支配している。 生存者はいないのか。 ***は……あいつは、どこにいる。 馬のスピードを落としながら見渡すが、それらしき姿は見当たらない。 まさか喰われたんじゃねぇだろうな。 そう思った瞬間だった。 視界の端に、一体の巨人が入る。 ここから少し離れた所にいたそいつは、俺に気づいていないのか、別の方向へ進んでいた。 まるで、その方向に人でも見つけているかのような……。 ……まさか、 嫌な予感が頭をよぎる。 進路方向をすぐに巨人へと向け、馬をせき立てた。 だんだんと距離が近づくにつれ、そいつの姿形が明瞭になる。 それと共に、そいつの視線の先がどこに向いてるのかも。 蹄が土を蹴る音を耳に入れながら、視線の方向に目を向ける。 そして思わず目を見開いた。 そこに居たのは、紛れもなく探していた姿だった。 ここからだと倒れているということが確認できるだけで、息をしてるのかどうかなんて分からない。 とりあえずあの巨人が邪魔だ。 視線を巨人へと戻し、剣を抜く。 喰うことしか頭にないそのでか物は、やっとこっちに気づいたのか、顔を俺の方へ向けた。 そしてこっちに向かい始める。 「馬鹿が」 十分引きつけた所でアンカーを飛ばし、瞬時に馬から飛び降りる。 俺を掴もうとするその手を避けながら、巨人のうなじ目掛けて剣を振り下ろした。 *backnext# [戻る] |