13 長らく付けていなかった起動装置は重く感じた。 けれど一回立体起動に入れば、少しぎこちないながらも体が勝手に動く。 アンカーを飛ばす音。 感じる浮遊感とスピード感。 全てが心地よかった。 でもずっと寝たきりで衰えた体力のせいで、そう長く飛ぶことが出来ない。 疲労を感じて止まった時には、体力も筋力も思った以上に疲弊していた。 こんなんじゃ、とうてい壁外調査なんてできない。 半月後にある壁外調査には参加出来ないだろう。 焦りを感じる中、私の頭の中には一案が浮かんでいた。 思い立ったら即行動。 私は疲労して重い足を無理矢理動かし、エルヴィンの所へ向かった。 ノックをすると中から返事が聞こえたため、ドアを開ける。 部屋にはエルヴィンと、そしてリヴァイも居た。 リヴァイはソファーに足を組んで座り、彼独特の持ち方でコーヒーカップを持っている。 彼らを挟んで置いてあるテーブルには、陣形の描かれた資料が乗っていることから、次回の壁外調査のことについて話していたのだろう。 「立体起動でもしてきたのか?」 リヴァイに問われて、はっとする。 練習後ここに直行してきたから、起動装置を外し忘れた。 「うん、久しぶりにしてみたんだ。それで、ちょっとエルヴィンに話があったんだけど……今忙しいかな?」 「いや、大丈夫だ。ちょうど話も一段落した所だからね」 どうしたんだい? とエルヴィンはいつもの優しい表情を向ける。 「私さ……思った以上に体が動かなくて、またちゃんと鍛え直したいんだけど…」 私の言葉に、エルヴィンもリヴァイも耳を傾けている。 私は先を続けた。 「それで、今104期生が訓練中でしょ? 私もその訓練に、一時的に参加することって可能かな?」 自分一人でやるには限界があり、多忙なハンジ達に頻繁には頼めない。 誰か、私と同じ状況の人がいたらいいのに……と、そんな考えから思いついた。 訓練兵達の中に入ってやれば、彼らと共に体を鍛え、とても効率よくリハビリができる。 エルヴィンは少し考えた後、なるほど、と頷いた。 「それが出来れば、確かに早く復帰できそうだな。私からキース教官に言ってみよう」 その言葉にホッとした。 あちら側が受け入れてくれるかまだ分からないけど、ひとまず第一関門突破だ。 「半月後の壁外調査は無理だろうが、その次の壁外調査には是非間に合うようにしてもらいたい。君の力が、我々には必要だ」 エルヴィンはいつも士気を上げることを言ってくれる。 彼の期待に答えたくて、私はいつも頑張ってきた。 分かった、という言葉と共に、彼へ敬礼を示す。 「どうもありがとう。邪魔してごめんね」 そう言って、部屋を出ようとした時だった。 ***、とリヴァイから呼ばれた自身の名前に、足を止めて振り向く。 「夕方街に出るぞ。準備しておけ」 いきなりの突拍子もない言葉に、ぽかんとしてしまった。 そんな私を見てリヴァイは、アホ面してんじゃねぇ、と一言。 ひどい。 「飲むんだろ? お前が訓練に行ったら出来なくなるだろうが」 そのセリフで、合致した。 部屋飲みの話だ。 街に出るのは、お酒を買いに行くためだろう。 リヴァイは覚えてくれてたのだ。 それがとても嬉しくて、思わず顔が綻んでしまう。 「分かった! そしたらハンジも誘っておくね。それじゃまた後で!」 嬉しさが全面に出てしまっている気がするけれど、しょうがない。 抑えきれなかった。 二人に挨拶をし、部屋を出る。 ハンジを誘おうと思って彼女の元へ向かう足取りは、疲労を忘れたかのように軽かった。 *backnext# [戻る] |