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オリキャラ小説
消火
2016 4.09 PM 6:46:58 ウィリアム・ラスター
イギリス バーミンガム
8番ストリート

消防署から再出動してきた俺たちを待ち受けていたのは言うまでもないが燃え盛る家だった。
すでにかなり火の手が回っているようだ。
ほとんどの部屋から紅蓮の炎が伸びている。
この分じゃあ消火しても全焼になるのは免れねぇだろう。

「こりゃーやべーなぁ」
「早くいこう!」
「ああ・・・」

邪魔な野次馬どもをかき分けて、家の前へとやってきた。尋常じゃない暑さだ。汗がとまらねぇ。
黒煙・・・烈火・・・すべてが俺たちの視界を覆っている。だが臆するわけにはいかない。

「状況はどうなってる?」
「ま・・・まだボウズが中にいるらしいんだ・・・」
「ハァ!?」

この中にまだ人がいるってのか!?
クソッなんてこった!初出勤から面倒な事態になりやがって!

「なんでこんなになるまで救助しねーんだよ!」

ニクラスがひ弱そうな消防隊員の胸ぐらを掴みあげるなり叫んだ。

「ひいぃっ・・・い、いや僕も聞いたのは今さっきのことで・・・」
「ニクラス、やめなって!」
「だったら、さっさと突入しろってんだよ!」
「こ、こんな火の中で今も生きているわけがねえよ!」
「行ってみねえとわかんねえだろうが!」

オリーが必死にニクラスをなだめているが、ニクラスは譲らない。
普段からは想像が全くつかない正義感だな、ホントに。
だが、それよりも・・・

・・・炎。こんな大きな家を一瞬で灰にしようとしている。
火は火へとつながり、やがて巨大になっていく。
どんなものでも、燃え続ければいつかは消滅する。
そして、炎というものは人を引き付けるようだ。
後ろにいる大量の野次馬を見れば、それがわかる。
人間は本能的に火を恐れるものじゃなかったか?
なのに、怖いもの見たさってやつか?異常な人数だ。
だが・・・俺は不思議とこの炎に恐怖を感じない・・・なぜだ?いや・・・

「・・リァム!」
「ウィリアム!!」

俺は我に返った。どれくらいの間燃え盛る炎を眺めていたのかわからない。
だがニクラスの叫び声に俺は現実へと引き戻されたようだ。

「ドアを蹴破る!手伝え!」
「了解」
「お、おい!お前らマジで中に入るつもりか!?」
「ガキがいるってのにほっとけるかよ!」
「オリー、そのへタレ野郎を頼んだぜ」
「あ、うん・・・気をつけろよお前ら・・・」

「いいか、ウィリアム。1、2・・・3!」
バァン!
俺とニクラスの蹴りは玄関のドアを突き破った。
その瞬間、この世のものとは思えない業火と、熱気が俺たちを襲った。
「ぐあっ・・・」
「ここまでとはな・・・」
「ウィリアム!俺は下を探してみる!お前は上を頼む!」
「ああ、死ぬなよ」
「その言葉そのまま返してやるよ!行くぞ!」

俺は階段を駆け上がった。
見たところドアが4つか・・・?
クソッ煙で奥が見えない。俺は今廊下に立っているはずだ。
この火の中で生きていたらマジで奇跡としか言いようがねぇな・・・
俺もいつまでもここにいるわけにはいかない。
いつ倒壊してもおかしくないからな。
しらみつぶしに探すしか・・・なさそうだ・・・

「オラァ!」

俺は一番近くにあった左手のドアを蹴破った。
熱で金具が弱まっていたのかすぐに開いた。
ここは・・・書斎かなんかか?おびただしい本が並んでいたようだが、もはや炎で見る影もない。
見たところガキはいなそさうだ。

「次っ!」

子供部屋のようだ。ここならどこかに・・・
裕福な家だったのかおびただしい数のおもちゃが並んでいる。
チッおもちゃになんか気を取られている場合じゃない。早くしないとここもヤバい。
すると、不自然に半分だけ開いたクローゼットが目に入った。急いで駆け寄り、開けてみる。

「うぉっと・・・!」
中から10歳くらいか?それくらいのガキが倒れこむように出てきやがった。
こんなところに入ってて助かるわけがねえだろうが・・・バカが・・・
ガキを抱え、俺は部屋を飛び出した。
壁がミシミシ言ってやがる。崩れる前兆か!?

階段を降りようとして俺は驚愕した。
階段がないのだ。燃え落ちた柱で塞がれてしまったのか・・・
このままでは俺はガキもろともお陀仏だ。
どうすれば・・・クソッ一つしかねぇだろ!
俺は一直線に子供部屋にあった窓まで走った。
もうこの家は限界のようだ。窓が近づいてくる。
このまま行って大丈夫なのか?だがもう考えるような猶予もねぇ。一か八か・・・!

「そおおぉぉぉぉらあァァァ!!」

俺はガキを抱え頭から窓へ突っ込んだ。
すべてがスローモーションに見えた。走馬灯か?
こんな時だというのに冷静に頭は回りやがる。
飛び出した時と家が倒壊しだしたのはほぼ同時のようだ。
だが次の瞬間、俺は地面へと叩きつけられた。

「ゲホッ!」

クッ・・・どこから落ちた・・・?
後先考えてなかったが下はどうやら芝生のようだ。
俺も無駄にしぶとい命持ってやがるぜ・・・
だが、ダメージはデカいな。骨までは・・・いかなかったようだが。

「ウィリアム!?」
「おい!しっかりしろよ!ウィリアム!」
「騒ぐな・・・俺は大丈夫だ。それよりこのガキを・・・」
「おい!へタレ野郎!少しは仕事しやがれ!」
「わ、わ、わかったよ・・・」

へタレはガキをニクラスから受け取り、どこかへ走って行った。

「ウィリアム、肩貸すよ」
「ああ、悪りぃな・・・」

俺はオリーの肩を借りて立ち上がった。
チッ・・・思ったより体が痛てぇ・・・

オリーは俺をベンチへと座らせた。
その時、人ごみの中から30代くらい?の女が現れた。

「うちの子を助けていただいてなんとお礼したらいいやら・・・」
「あ、いえ、その子を助けたのは俺じゃなくてこの二人ですよ」
「ノンノン。何言ってんだよ。こいつだろ?」

感謝されるのは悪いことじゃないかもしれないがな、俺は今そんな気分じゃなかった。半端ない疲労感だ。

「気にすんな・・・」
俺は力ない笑顔でこう言い放った。

「とにかく・・・皆さんありがとうございました・・・!」

そういうと女は足早に去って行った。

・・・疲労感は半端ないが・・・心地よいものだ。
この達成感。このスリル。天職だなこりゃ。
クククク・・・・・

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あきゅろす。
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