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オリキャラ小説
絶望と希望
2018 8.18 PM 10:27 ナターリア・リヒテンベルガー
ドイツ シュトゥットガルト
マルクト・ハレ周辺


病院からここまで走ってきたのでさすがに疲れた。
普段は自転車だし、一応事故起こした身だしね。そりゃ疲れるわ。

・・・それにしても、やはり周りは鮮明に見える。
マルクト・ハレ。室内マーケット。1階に食べ物が、2階ではレストランや日用品を取り揃える店が入ってる。
あたしが事故に合わなければここに来ているはずだった。そして家で誕生日パーティをしてたはずだったのに。

ここは夜でも明るくて人通りが多い。
それなのにあたしの周りを歩く人たちが一人一人はっきりとわかる。
ほんの数十分前までは正に目と鼻の先も見えなかったのよ?いったい何が起こったの?

クルトさんには会っていない。
あれっきり完全にどこかへ行ってしまった。あたしに何をしたのかしら?あの光は何?とにかく釈然としない。

見えているとはいえ、何か変な違和感がある。
とにかく、事故に合う前にはなかった違和感が・・・
それがなんなのかははっきりとはわからないんだけど。

でも、ここまで何事もなく来られた。
人にも、物にも一切ぶつからずに走ってこられた。
事故で視力を失ったときはもう何もかもが嫌になったけど、あたしは今こうして自由に歩いている。
このまま家に戻ろう。パパがいるはず。絶対いるはず。

あたしはまた家の方に向かって歩き出した。
ホントは走っていきたいけど、ちょっとバテちゃったから。

少し行くと見覚えのある交差点に出た。
信号のある見通しのいい十字路。東側にに長い坂がある十字路。
そう、あたしが事故った十字路ね。
坂の方にはまだパトカーが1台止まっていた。
北側の横断歩道の横、車道の真ん中あたりで何やら警察官が2人話しているみたい。
あ、もう一人パトカーの中にいるわね。

考えてみるとあの場所、あたしが吹っ飛ばされた場所じゃない?
特に地面がへこんだりはしていない。
まあ人間の方がへこむよね、普通に考えたら。どうしてあたしは無事だったのかしら?
偶然、なのかな?なんだかおかしいことばかりだ。

・・・まあそんなことどうでもいいわね。
早く家に戻りましょう。警察に見つかると面倒かも。
回り道になるけど向こうの通りから行こう。
あたしは来た道を引き返すことにした。

・・・!
あたしは咄嗟に左に避けた!
その直後、あたしが立っていた場所をそのまま自転車が通り抜けて行った。
チリーンとか鳴らしながら。

全く危ないわねー 歩行者のことも少しは考えなさいよ!
今病院まで戻るわけにはいかないのよ。
避けなかったらまたケガするところだった・・・
ん?あたし、どうして後ろから自転車が来たことがわかったの?
音?いや、自転車が走る音なんてそもそもないし。
たとえあったとしてもすぐ横の道路をひっきりなしに走っている車の音の方が大きいはずだ。
それなのに自転車の走る軌道までハッキリ読めていた。
見てもいなかったはずなのに・・・

まぁラッキーだったのよ。勘が冴えてたんでしょ。
ありえないわよねこんなに運のいいことが続くなんてね。
そろそろ体力も戻ってきたし、また家まで走ろう。
あたしは右足で地面を蹴って、また走り出した。



8.18 PM 11:05 ナターリア・リヒテンベルガー
ドイツ シュトゥットガルト
リヒテンベルガー家前


なんだかとても長い時間をかけてたどり着いた気がする。
未だに頭の中はまともに整理できていないままだがもうそんなことはどうでもいい。
わざわざ病院を抜け出してここまで来た理由を忘れてはいけない。

あたしは階段を上り、玄関のドアノブに手をかけた。
ガチャリと聞きなれた金属音が鳴る。
・・・が、開かない。カギがかかっているみたい。

窓から家をのぞいてみた。
真っ暗だ。窓ガラスに反射してあたしの顔が写っている。
家の周りをぐるっと1周。開いてる窓とか・・・あるわけないか。

そもそも今何時?ケータイ、腕時計・・・
あたしはポケットの中を探ってみたが当然そんな都合のいいものは入っていなかった。

・・・寝ているのかな?
出来れば見つからずに確認してすぐに病院に戻ろうと思ってたけど・・・
インターホン鳴らしてみようか。
あたしは再び玄関の前に立ち、ドアの横のインターホンを押した。

キーンコーン

自分の家のインターホンなんて鳴らしたのいつ以来かしらね。
こんな音だったっけ。家の中で聞くのとはずいぶん違う。

・・・そうよ!よく考えたらこの場で待つことない。
どこかに隠れて確認すれば済むわ。むざむざ見つからなくてもいい。
退院してからまた会えることだし。

あたしはあたしは家の側面に周り、壁の陰にしゃがみ込んだ。ここなら大丈夫。窓からも見えない。

・・・出てこないわね。
電気がつく様子もなければ物音の一つもしない。
どうなってるの?

あたしは痺れを切らして玄関の前に出てみた。
ドアが開く様子は微塵もない。
・・・誰もいないみたい。ここまで来たのに無駄足になってしまったわ。

納得がいかない。このまま戻る?
・・・うーん・・・

「おや、そこにいるのは・・・」

あたしはビクッとして振り返った。
そこにいたのは・・・

「ああ やはりナタリーちゃんか。ホラ、覚えてるかい?何日か前に墓地で会った・・・」

「クルト・・・さん?」

「ああ覚えていてくれたか。いや、それより大丈夫なのかい?新聞で読んだよ。なんでも交通事故に合ったとか・・・」

「え?あ、いえ、何とか大丈夫みたいで・・・」

「そうか・・・大事に至らなかったみたいで何よりだよ。新聞には意識不明だって載っていたからね」

い、今更何を言ってるのかしらこの人は・・・
ついさっきあたしに病院で会った・・・
そうよ!クルトさんには聞きたいことがあるのよ!

「あ、あの・・・クルトさん。さっきあたしにいったい何をしたんです?」

「え?なんのことかな?」

「いや、確か30分くらい前。病院であたしに会いましたよね?」

「病院?君がいた病院?」

「ええ」

「いや、僕は病院なんて行っていない。それに君に会うのも隊長のお墓の前で会って以来だよ」

「? え? じゃああの人は・・・?」

ど、どういうことなの!?
訳が分からない!さっき会った人はいったい誰なの!?
あたしの体に何をしたっていうのよ!

「よくわからないが何かあっ・・・」

言い終わるか言い終わらないかするうちに、突然クルトさんの体は地面に倒れた。
あまりに突然のことにあたしはただ見ていることしかできなかった。

ようやく何が起こったか理解した。
あたしはクルトさんのそばに駆け寄り、しゃがみこんだ。

「ク、クルトさん!?しっかりしてください!一体どうしたんですか!?」

クルトさんは何の反応もしない。うつぶせに倒れたままだ。
・・・死んでる?

脈があるか確認しようとしたとき初めて気が付いた。
誰かいる。それもすぐそこに。
クルトさんの真後ろ。でも姿は見えない。だけど、何か・・・人間だ。

「ほう、私の存在がわかるようだな。ゲームクリアだ」

何もないところから突然声が響いた。
すると突然、あたしの前に黒い靴が現れた。
いや、違う!靴だけじゃない!
靴から上、徐々に足、胴体と明らかになっていく。

そしてついに全身が現れた。
真っ白いスーツと帽子、銀髪の男だ。肩に直方体の長いケースを下げている。
暗がりのせいで真っ白のスーツは余計に際立って見える。

「な、何よ・・・あんたは・・・」

「こんばんは。お嬢さん」

男は軽く一礼しながら言い放った。

「私はA。JPS、join playersのボスだ」

「じぇ、じぇーぴーえす?」

急に出てきたと思ったらなんなの?
何よJPSって?

「そのJPSとやらがあたしに何の用なのよ?」

「ふむ、私は君に真実を伝えに来たのさ」

「真実?」

「そうだ。昨日の夜、墜落したSAL215便についてだ。そのためにここに来たんだろう?ナターリア・リヒテンベルガー」

「ど、どうしてあたしの名前まで・・・」

「何、君は気づいていないようだが私は君に1度会っている」

「は?何言ってるのよ?あたしはあんたなんか今初めて見たのよ?」

「まあ、この姿はな」

「え?」

すると、Aと名乗った男の姿がまた足から変わっていく。
こ、こんなことが本当にあり得るの!?
変身し終わった姿を見てあたしは息をのんだ。

「ク、クル・・・」

クルトさんとそっくりな顔だ。
倒れている本物のクルトさんと見比べてみた。
そっくりなんてレベルじゃない。そのものだ。寸分の違いも見当たらない。

「じゃあ・・・病院であったのは・・・」

「その通り。私だ」

声も同じ。ついさっきの若い声から急に低くてしわがれた声になっている。

「この、本物のクルトさんはどうしたのよ?まさか・・・殺したなんて言わないわよね・・・?」

「安心したまえ。成り変わる人間は殺さない主義だ。気を失っているだけさ」

あたしはそれを聞いてホッとしたが、気になることは他にもたくさんある。

「・・・病院であたしに何をしたの?」

「君は視神経がつながってなかっただろ?視神経を直接脳に繋いだ」

「はぁ?」

「正確には君は今も目が見えていない。
しかし、理論上は脳のある部分と視神経を連結させれば、周りは見えなくとも
物質、物体、生物から発されている『気』を感じ取ることができるようになる」

「? 脳? 気?」

何を言っているのか全く分からなかった。

「簡単に言えば常人より視野が広がっているわけだ。
それに先ほど姿を消していた私の姿も感じ取ることができただろう」

「そう言われれば・・・」

「外見上の変化は何もないがね。それより、SAL215便。君の父親、ハインツ・リヒテンベルガーについてだ」

「!」

正直効くのが怖い。しかし聞かなければならない。
思わぬ展開になったとはいえ、あたしがここに来たのはそのためだ。

「SAL 215便はイラクを発射後、ヨーロッパ上空でイラクから紛れ込んだテロリスト4名にハイジャックされた。
彼らの要求はベルリンの陸軍基地に機体を突っ込ませること」

「じ、自爆テロ・・・?」

「その通り。首謀者の名はリーランド・オルグ。
イラクの反政府派の一人だ。元より死は覚悟の上。
体には爆弾を巻きつけていた。よく空港のチェックを通ったものだな」

「・・・・・・・・」

「このまま黙っていても乗客に待っているは死のみ。そこで行動を起こした数名がいた。」

「それってもしかして・・・」

「ああ。君の父親もその中に含まれていた。
犠牲者を出さないようにするため、テロリストの隙を伺いすぎたのが仇になったようだ。
見事テロリスト全員を取り押さえたようだが、時すでに遅し。
機体は制御を失い、ドイツのど真ん中に墜落してしまった」

「・・・じゃあ・・・パパは・・・」

「・・・残念だ」

そんな・・・
やっぱり・・・パパは・・・
わかってたのに・・・こうなるってわかってたのに・・・!
あたしは現実を見ていなかった。でも、でもこんなことって・・・
目から涙が溢れた。

短期間でここまで不幸が重なるなんて・・・
普通・・・普通ありえないでしょ!!

「・・・父親のことは残念だがこれがある」

Aは肩に下げていた長いケースを地面に降ろし、
金具を外して蓋を開けた。
中には何やら色んなパーツが整頓されて入っている。

「君の父が実際に使っていたライフル。L96A1だ。
イギリス生産のはずだが独自のルートで輸入したようだな」

「・・・そう」

「さて、このタイミングで言うのは酷だが君には我がJPSの一員となってもらいたい」

「・・・・嫌よ そんなの」

「君の『気』を感じ取る能力があれば、このライフルを扱うことも不可能ではない。
父の遺志を継ぐ気はないか?」

「パパの意志?」

「知っての通りイラクの平和のために君の父は出向いていた。
そして、危険を顧みず乗客を救出しようと奮戦した。死を恐れることなく。
これからのことについては全て保証する。後は君の選択次第だ」

「・・・・・・」

何よ・・・勝手なことばかり言って・・・
・・・・・・パパ。

「・・・そのケース、あたしにちょうだい」

Aは黙って蓋を閉じ、あたしに向かってケースを差し出した。

「・・・いいわよ。やってやろうじゃないの」

「フッ・・・いいだろう。ならば早速だが、JPSとしての名を決めてくれ」

「名前?」

「なんでもいい。ただ、自分の名は捨てろとは言わない。
あくまでコードネームのようなものだと思えばいい」

「いきなり言われてもね・・・じゃあ、ルカでいいわ」

「了解。君の名は今から『ルカ』だ」

・・・・・・・
パパが守ろうとしたもの・・・
パパが守れなかったもの・・・
パパが守るはずだったもの・・・

全部背負って、あたしは行くよ。
だから・・・見ててね。

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