ヒナギクの夢

「アイツ、キモいんですけどぉ。」

「どっか行けよマジで。つーか、学校来るな的な!」

「マジうぜぇ!!」


クラスメート達の、悪口やギャハハと言う下品な笑い声が、絶え間なく聞こえる。

声の持ち主は、厚化粧に髪をクルクル巻いている女子。

髪を明るく染め、ワックスで遊ばせてる男子が多い。


「マジでキモ〜。」

「ちょと、聞こえるって!!」

「聞こえるように言ってんのー!!」

「ギャハハ、ウケるし!」


それを他人事のように感じつつ、彼は黙々と本を読む。

だが、全ては自分に向けられている言葉だと、本人自身がよく分かっていた。

酷い罵声を浴びながらも、本を読み続けている彼の名は乃木密(のぎ みつ)。

色素の薄い髪は一見綺麗だが、長い前髪で顔を隠した姿が何とも印象的である。

無口で陰気。

いつも独りで本を読んでいる彼は、明らかにクラスで浮いていた。


「アイツ、マジで気持ち悪いよな。」


何度言われただろうか。

ミツは思った。

しかし仕方がない。

ミツにはどうする事も出来ないのだ。

昔から他人と関わる事が苦手だったミツは、自然と話せなくなってしまった。

会話は出来るが、自分から話し掛ける事が出来ない。

逆に向こうから来てくれても対応に困るばかりで、会話はいつも続かなかった。


─ みんなと仲良くなりたいな…


それはミツの願い事。

どんなに同じ空間に居ても、一人浮いた存在になってしまうミツ。

だけど本当は、皆と同じになりたいと日々願っていた。

皆と仲良くなれたら、皆と上手く話せたら、どんなに楽しいだろう。

きっと、とても幸せな気持ちになるに違いない。

そうやって夢をどんどん膨らませるが、最後には必ず虚しくなる。

ミツには『夢の叶え方』がどうしても分からないからだ。





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あきゅろす。
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