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「涼介。」
「…なに?」
「…何かあった?」
「別に。」
そう言うと秀明は眉間に皺を寄せて、疑うような目で見つめ返してきた。
それはきっと俺が部屋に戻ってきてから、一言も喋ることなくジッとしているからだと思う。
だけど、どうしようもないんだ。
頭の中でさっき見た謙人と浮気相手が並んでて…お似合いに見える二人の姿が離れない。
あぁきっとまた、謙人は彼の甘い言葉に乗って彼の部屋に行ったんだろうなぁ…
今の俺にはもう止める権利がないから…だから幾ら嘆いたって仕方がない事だけど。
それでも胸が凄く痛かった。
ただ、願う事は許して欲しい。
謙人があのまま誘いに乗っていない事を、俺以外の誰にも触れていない事を。
あの大きくて綺麗な手だって、サラサラした髪だって…
本当は、謙人の全部が俺のモノだったんだから…ー
「涼介…、」
「…何…、…俺は別に大丈夫だから、」
「いや、そうじゃなくって…」
トイレへ行っていた秀明が戻ってきたと思ったら、今度は困ったような顔をして帰ってきた。
一体どうしたんだよ‥、
「奥野、またきてるぞ…」
ビックリした。
いくら願ったって、どうせ誘惑に乗るんだろって…そう思っていたから。
なのに来てくれた、
俺を選んでくれた。
謙人のくれる幸不幸に何度も惑わされる。
今はただ…嬉しかった。
「どうする?‥あの調子だったらそのうちドア壊す勢いなんだけど…」
「………ど、しよ‥」
「…俺が代わりに話してこようか?ついでにアイツの顔面に一発殴ってくるわ。」
「そ、それは駄目!!」
拳を作った秀明に焦り、急いで止める。
ただでさえ秀明には迷惑を掛けているのに、暴力まで振るわせるのは嫌だ。
だからと言っていつまでも謙人を無視していたら、本当に扉を壊してでも入ってきそうだった。
「はぁ……取り敢えず、今日は帰るように俺から言ってくる。いつまでもあそこに居られたって周りにも迷惑かけるし。」
「…あ、あっ…待って!!」
また急いで止めに入る。
秀明の「迷惑」という言葉が引っ掛かった。
確かに俺なんかの為にいつまでも俺を呼び続ける謙人も、それを聞いている秀明や他の部屋の人達かって迷惑だろう。
俺の所為で色んな人に迷惑が掛かっていると思ったら…
居ても立ってもいられない。
「俺が…話してくる。」
「…無理しなくていいぞ。代わりに俺が、」
「ううん、ちゃんと自分で言ってくる。」
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