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「俺そんな信用ないんだ。」

「…信用してない訳じゃないけど、」

「けど何?微妙なタイミングで舌打ちしたのは確かに悪かった。でもここまで責めるの可笑しくね?」


苛立ちを含んだ虎の声に佐奈は俯いて唇を噛んだ。

気分がどっと悪くなる。


「虎…怒ってる。イライラしてる。やっぱり私なんて…、」

「佐奈がそんなんだからだろ?ちゃんと考えろよ。」

「っ…馬鹿にしないで!考えてるよ!」


そう叫んで佐奈は布団の中へ潜り込んだ。

虎の存在を…全ての事を遮断するために、身体を丸めて耳を塞ぐ。


「帰って!」


布団の中からくぐもって聞こえる佐奈の叫び声に、虎は舌打ちを残して部屋を出ていった。

こんなに馬鹿馬鹿しい事で喧嘩をするなどやってられない。

マイナス思考にも程があると、急に佐奈の事が分からなくなった。




「あ、虎君…もう帰るの?」

「……。」

「あの…佐奈ちゃんの様子…、」

「…後で心配するぐらいなら最初から那智と関わんな。佐奈が傷つく可能性とか考えられたんだろ?お前も那智も佐奈も、マジで馬鹿ばっか。いい加減にしろよ…!」


日奈に言ってもしょうがないと、八つ当たりだと理解していながらも虎は怒鳴った。

那智の存在を未だに引きずっている佐奈も、何を考えているのか分からない日奈や那智も。

少し名前が出ただけで悪くなる状況も嫌だった。


「虎君の言う通りだね…分かってたのに、配慮が足りなかった。私のせい。」

「なんで……なんでお前らはそうやってすぐ自分を責めるんだよっ…、」

「虎君…?」


佐奈といい日奈といい、私なんか、私のせいと言ってすぐに自分を責める。

別に責めるのは構わないが、慰めれば慰めたで否定的な返答を繰り返す佐奈はもっと嫌だった。


「お前ら面倒くさい。俺に何求めてんの?意味わかんね…。」

「佐奈ちゃんのこと?」

「そう。お前の妹。どんだけ優しくしてもすぐ私なんかって…被害妄想激し過ぎ。頭可笑しいんじゃねぇの?」


今まで我慢してきた言葉が爆発するように次から次へと出てきた。

いつだって言葉を選んで佐奈に寄り添ってきたが、ここまで拒否されては我慢ならなかった。


「佐奈ちゃんの頭は可笑しくないよ。」

「可笑しいだろ?」

「冷静に考えて。本当に言ってるの?」

「それは……、」


少し冷たい声で言った日奈に口ごもる。

彼女に対して頭が可笑しいなど、確かに言い過ぎだったと思う。


「不安、なんだよ…。」

「俺が不安にさせてるって?」

「違う。佐奈ちゃんは…人が怖いの。私のことも、パパのことも、ママ以外は信用してない。」

「じゃあなに?俺がしてる事って無駄じゃん。俺は佐奈のママじゃねぇ。」


日奈の主張は益々虎を混乱させた。

そんな事を言われては、どうしようもなかった。


「虎君は知ってるでしょ…。ママは…帰ってこない。それが怖いの、大切な人を失うのが怖い。今だってずっと、佐奈ちゃんは脅えてる…。」

「……。」




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