19
「俺そんな信用ないんだ。」
「…信用してない訳じゃないけど、」
「けど何?微妙なタイミングで舌打ちしたのは確かに悪かった。でもここまで責めるの可笑しくね?」
苛立ちを含んだ虎の声に佐奈は俯いて唇を噛んだ。
気分がどっと悪くなる。
「虎…怒ってる。イライラしてる。やっぱり私なんて…、」
「佐奈がそんなんだからだろ?ちゃんと考えろよ。」
「っ…馬鹿にしないで!考えてるよ!」
そう叫んで佐奈は布団の中へ潜り込んだ。
虎の存在を…全ての事を遮断するために、身体を丸めて耳を塞ぐ。
「帰って!」
布団の中からくぐもって聞こえる佐奈の叫び声に、虎は舌打ちを残して部屋を出ていった。
こんなに馬鹿馬鹿しい事で喧嘩をするなどやってられない。
マイナス思考にも程があると、急に佐奈の事が分からなくなった。
「あ、虎君…もう帰るの?」
「……。」
「あの…佐奈ちゃんの様子…、」
「…後で心配するぐらいなら最初から那智と関わんな。佐奈が傷つく可能性とか考えられたんだろ?お前も那智も佐奈も、マジで馬鹿ばっか。いい加減にしろよ…!」
日奈に言ってもしょうがないと、八つ当たりだと理解していながらも虎は怒鳴った。
那智の存在を未だに引きずっている佐奈も、何を考えているのか分からない日奈や那智も。
少し名前が出ただけで悪くなる状況も嫌だった。
「虎君の言う通りだね…分かってたのに、配慮が足りなかった。私のせい。」
「なんで……なんでお前らはそうやってすぐ自分を責めるんだよっ…、」
「虎君…?」
佐奈といい日奈といい、私なんか、私のせいと言ってすぐに自分を責める。
別に責めるのは構わないが、慰めれば慰めたで否定的な返答を繰り返す佐奈はもっと嫌だった。
「お前ら面倒くさい。俺に何求めてんの?意味わかんね…。」
「佐奈ちゃんのこと?」
「そう。お前の妹。どんだけ優しくしてもすぐ私なんかって…被害妄想激し過ぎ。頭可笑しいんじゃねぇの?」
今まで我慢してきた言葉が爆発するように次から次へと出てきた。
いつだって言葉を選んで佐奈に寄り添ってきたが、ここまで拒否されては我慢ならなかった。
「佐奈ちゃんの頭は可笑しくないよ。」
「可笑しいだろ?」
「冷静に考えて。本当に言ってるの?」
「それは……、」
少し冷たい声で言った日奈に口ごもる。
彼女に対して頭が可笑しいなど、確かに言い過ぎだったと思う。
「不安、なんだよ…。」
「俺が不安にさせてるって?」
「違う。佐奈ちゃんは…人が怖いの。私のことも、パパのことも、ママ以外は信用してない。」
「じゃあなに?俺がしてる事って無駄じゃん。俺は佐奈のママじゃねぇ。」
日奈の主張は益々虎を混乱させた。
そんな事を言われては、どうしようもなかった。
「虎君は知ってるでしょ…。ママは…帰ってこない。それが怖いの、大切な人を失うのが怖い。今だってずっと、佐奈ちゃんは脅えてる…。」
「……。」
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