18
18時の10分前、閉館時間を知らせる館内放送が流れた。
「マジか…。」
「……。」
あれからの二人は、児童書コーナーで殆どの時間を使ってしまった。
初めはエルマーの冒険を探す所から始まり、タンタンの冒険や他の懐かしい絵本を見つけていくうちに夢中になってしまった。
そんな所での館内放送は、二人を現実に引き戻す役目を大いに果たしていた。
「勉強してねぇ…。」
「そうだね、頑張ってね。」
「お前…前から思ってたけど、たまに図々しいよな。お前に心はないのか。」
「ないよ。」
「いやあるだろ。冗談通じねーな。」
淡々と話す日奈に那智は笑い、エルマーの冒険をちらつかせた。
まだここでは叩かない。
ここぞという時に使おうと、ニヤニヤ笑った。
「本は読むものです…。」
「誰が言ってんだよ。エルマーは武器だろ?」
「エルマーは九才の少年。那智君…戻してくるね。」
日奈は那智の手から本を抜き取り、元の場所に戻しにいった。
それを後ろから見届け、戻ってきた日奈と共に図書館を後にした。
「今日はありがとう。」
「おー、すげぇ疲れた。」
二人は別れ道で一度立ち止まり、向かい合う。
那智は一瞬家まで送ろうかと考えたが、まだ空は明るいし、そもそも彼女でもないのに馬鹿らしいと考え直した。
「じゃあ解散。」
「また学校でね。」
解散と言いながら敬礼のポーズをとった那智につられて日奈も敬礼のポーズをとる。
その後は余韻を残すこともなく別れたが、今のやり取りが案外可愛いものだったことに、那智は口元を緩めて帰り道を歩いた。
「佐奈…大丈夫?」
「うん…まぁ。」
芳野家では、佐奈と虎が勉強会と題して共に時間を過ごしていた。
しかし佐奈は朝から心ここに在らずと言った感じで、集中力が持続しないようだった。
「いい加減話せよ。本当はなんかあったんだろ?」
「……。」
虎の心配そうな声に佐奈は少しだけ癒される。
それでも心にあるモヤモヤは晴れそうになかった。
「今日…、日奈と那智が図書館で勉強会してるんだって…。」
「へぇ、意外。」
「…凄く、イヤ。だって那智、今まで日奈のこと嫌ってたのに…なんで急に仲良くなってんの?可笑しいよ。」
佐奈の言い分はよく分かる。
確かにあの二人が仲良くなればなるほど違和感があって、変な気分だった。
ただそれより気掛かりなのは、佐奈の中に未だに那智という存在が居ること。
佐奈から正式に付き合おうと言われて数ヶ月経っているというのに、こうして二人で居ても那智を気にしている。
佐奈を独占しているのは紛れもなく自分であるはずなのに、居ても居なくても邪魔をするあの二人が恨めしくなった。
「チッ……、」
虎は苛ついた結果、舌打ちを零した。
それがどんなに小さくとも、たった二人しか居ない空間では佐奈の耳にも届く。
佐奈はハッとして、泣きそうな顔で虎の顔を見た。
「虎…私の事、そんなにウザイ…?」
「え…?」
「私、捨てられるの?」
「どうした佐奈…いきなり…。」
「だって今…!舌打ちしたじゃん!」
佐奈は虎の身体を力いっぱいに押した。
目には涙が溜まっている。
まさかそんな勘違いをされるとは思わず、余計な事をしてしまったと虎は焦りだした。
「違う違う!今のはあいつらに対するので…佐奈に対してじゃないから!」
「嘘…何とでも言えるじゃん!本当は鬱陶しいんでしょ?こんな事だけで一々傷ついてるなんて面倒くさいって思ってるんでしょ!」
「だから違うって!勘違い!俺のタイミングが悪かっただけで一切そんな事思ってないから!」
「それが本当でも…ずっと思ってたんじゃないの?今だってどうせ、面倒くさい女だって思ってる癖に。」
佐奈に何を言おうが、否定的な考えは悪化する一方だった。
次第に虎は本当に苛立ちを覚える。
勘違いだと何度も言っているのに、一向に信じようとしない佐奈に苛立ちが募った。
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