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那智はようやく納得して、周りの迷惑にならない程度に小さく唸り声を上げた。

浮いている浮いているとは思っていたが、一つ秘密が明かされたことによって、那智の中で日奈のイメージが大きく変わっていった。

幼い頃の日奈と現在の日奈は不思議と同一人物に結びつかないような印象だったが、カラクリさえ分かれば同じだった。


「お前が変わってんのはそのせいか。」

「かな…?」

「佐奈はそれ知ってんの?」

「うん…家族だもの。」


勉強どころではなくなったと那智は考えてから、コイツに勉強は要らないのだと瞬時に思う。

ずっと頭が悪いと思っていた日奈が実は頭が良いなど、まだまだ実感が湧かない。

それでも那智は、何故だか根拠もなく日奈の言葉を信じていた。

日奈がそう言うのならそうなのだろうと、本人すら自覚していないレベルで信頼感を持っていた。


「そんな話、佐奈から聞いたことない。」

「佐奈ちゃんは言わないよ…。だから私も、ずっと言わなかった。」

「俺は?俺に話して良かったのか。」


二人が今までひた隠しにしてきた事実を那智は知ってしまった。

知らされてしまった。

今までの十数年間を、嘘で塗り固めて生きてきたとなると、相当な決意があったに違いない。

自分がもし同じ立場ならば到底成し得ない事を日奈がしてきたのだと想像し、改めて聞いても良かったのかと心配になった。


「那智君は、いつも声をかけてくれた。幼稚園でも、小学校の時も、中学も、今も…朝一番に話すのは那智君だった。」

「…悪口しか言ってないけど。」


那智は苦い表情をして顔を逸らす。

いつしか日課のようになっていた日奈への誹謗中傷を、あたかも前向きに捉えているような語り口に居たたまれなくなった。


「それでも、気にかけてくれた。今も、話を聞いてくれる。那智君は口が悪いけど、いつも本当の悪口は言わなくて、本当は世話好きで優しい人。」

「褒めても何も出ねーぞ…キモイ。」

「私には那智君ぐらいが丁度良いなって思う。だけどその優しさを前に、嘘をつき続けるのも失礼だなぁと…。」

「俺ぐらいって何だよ。それ褒めてんのか?」


那智は照れくささを誤魔化すために日奈を睨み付けた。

日奈は人をよく見てると思う。

確かに那智は日奈に対して誹謗中傷を繰り返してきたが、陰口という行為自体は嫌っていた。

誰かが悪口を言っていても聞き流すだけで深くは同意せず、適当にやり過ごしてきた。

日奈だけが例外だったのは、普段悪口を言わなかった分のしわ寄せだったのだと気がつき、那智は尚更居心地が悪くなった。


「那智君は必要以上に話さないでしょ?だから一緒に居たら楽だなぁと。」

「あぁ…それは俺も思う。すっげー楽。」


那智はふと、自分達はどこか似ているのではないか、という考えに至った。

浅い会話のみを必要としていて、それ以上に、精神的な部分で深く心を許せるような誰かをお互いに必要としていたのかもしれない。

それこそが今、日奈と共にここに居る意味だと那智は悟った。


「なぁ、俺はお前のヒーローなのか?」

「そう思うの…?」

「別に。言ってみただけ。裏切っても泣くなよ。」

「大丈夫。」


強く言い切った日奈を見て、那智はハァと溜め息を吐いた。

情報が莫大過ぎて全てを処理仕切れない。

明後日には試験だと言うのに、本当に勉強が手につかなくなった。


「チッ…シネ、バカが。」

「多分、那智君の方が……。」

「あ?言ってみろよ。続き言ったらエルマーの冒険で殴るからな。」

「ごめんなさい。」


速攻で頭を下げた日奈に、那智は思わず笑ってしまった。

これから武器としてエルマーの冒険を購入するしかないな、と密かに計画を経てまた笑った。


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