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「勉強してるか。」

「…たまに。」

「……。」


日奈は那智の目を見ただけで、何を考えているのか分かってしまった。


「疑っているんだね…。」

「疑うだろ。」


期末試験まで残り3日となった金曜日。

教室では真面目な生徒のノートやプリントが当然の如く回されていた。


「那智君は勉強してる?」

「馬鹿かテメェ。聞く前に考えろ。」

「そうだね…してるよね。」

「当たり前だ。」


ハッと馬鹿にしたように那智は笑い、今度は不自然なほどに黙り込む。

そして徐に良い笑顔を浮かべると、名案を思い付いたとでも言うように那智は口を開いた。







翌日の土曜日。

日奈は朝からソワソワと落ち着きのない様子で身支度をしていた。

あれから那智が出した案とは、勉強会を開講しようというものだった。

いつも無愛想ながらも、どこか世話好きらしい那智は、気分転換と題してそう持ち掛けたのだった。

もちろん断る理由のない日奈は二つ返事で受け入れていた。


「どこか行くの?」

「あ…うん。ちょっと、」


玄関に辿り着く前に佐奈と出会う。

佐奈は意外そうな顔で日奈を見ていた。


「買い物?」

「図書館だよ。」

「…荷物多くない?」

「そうかなぁ?」


いつもならば佐奈の一つの質問に対して十で返す日奈だったが、今回ばかりは那智が関わっているため、自然とラリーが多くなってしまった。

その微妙なやり取りが佐奈の中に違和感を植え付ける。


「那智……。」

「うん…、勉強会。」

「あっそ。勝手にやれば?…ウソツキの癖に。」


何となく違和感の原因を探り当てた佐奈は、吐き捨てるように言い放って離れていった。

日奈は俯き、確かにそうだなぁと、那智の善意に罪悪感を抱いた。

那智は日奈の為に勉強会を開くと言ったが、実のところ、日奈に勉強は全く必要がなかった。

むしろ勉強が趣味と言っても過言ではない為、今日行わる場以前に、那智の普段の気遣い自体が無意味だった。


「まぁ、良いよね…。別に…。」


那智君が勝手に勘違いして盛り上がっているだけもの、と心の中で付け加える。

罪悪感を適当な理由で解決させ、日奈は心を真っ白に入れ替えると、スリッパから外靴へ履き替えて玄関を出て行った。





「白と黒のコントラストキツいな…。もしかしてお前、まだ白にこだわり持ってんの?」

「うん。」

「普通趣味変わるだろ。そんなんだから何時までも成長しねぇんだよ。頭も身体も。」


待ち合わせ場所には那智が先に着いていた。

そして、おせぇと悪態を吐いた次の瞬間には日奈の外見を非難していた。

真っ黒い髪の毛に白いワンピースとベージュの靴、おまけに白い斜め掛けのカバンがついていては文句も言いたくなると那智は改めて日奈を見直した。


「変わる理由がないもの。」

「あのなぁ……まぁいいわ。暑いし入ろ。」


那智は溜め息混じりに図書館の中へ移動した。

日奈も後を追って中へ入る。


「あー、涼しー。誰かさんがもっと早くに来てくれたらもっと早くに涼めたのになぁ。」

「涼んでても良かったんだよ…?」

「俺に意見する前に早く来いバカ。」


入った瞬間、肌に触れる冷たい風と共に、軽く頭を叩かれた。

日奈がゴメンナサイと謝れば、適当に返事をして那智は周りを見回した。


「どこ座る?」

「どこでも大丈夫…。」

「分かった。俺はアッチ行くからお前はアッチ行け。」


そう言って那智は、大人や学生向けの勉強スペースと子供達が集まる児童書のコーナーを順番に指差した。


「分かった…。絵本読んでくるね。」

「待て待て。冗談だから。これだからバカは…冗談分かれよ…。」

「……。」


実際に児童書コーナーへ歩みを始めた日奈の手を、那智は呆れながら掴んだ。

そして保護者のように手を掴みながら学習スペースへ進み、ブツブツと文句を続けた。


「うーん…、」


日奈は冗談と分かった上で何となく乗ってみたのだが、結果として失敗したのかと少しだけ落ち込む。

普通のノリは難しい。

小さく息を吐いた。




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