13
「それより八尋。私と二人で歩ける事に感謝して何か奢ってよ。」
「はぁ?…誰が奢るか馬鹿。」
「ちょっとちょっと。ちゃんと分かってる?本当は男子と下校なんて私の決まりに反してる事なんだからね。そこら辺理解しなさいよ。」
「ん?話が違うぞ。それなら最初から女友達と帰れカリスマ。」
話題を変えて無茶苦茶な事を言い出した凛子を新太は冷たい目で見た。
こうやって帰路を共にしているのはいつも凛子からの誘いだった。
それをあたかも新太主導で行っているかのように言われては堪らない。
「佐奈は方向逆だし…。」
「他のダチは?」
「……。」
凛子が何も答えなかったことで気持ち悪い間が出来る。
クラスが違うので詳しくは分からないが、何か問題が起こっているだろう事だけは窺えた。
そして一気に暗くなる表情に、恐らく人間関係が上手くいっていないことを悟った。
「いつもね、佐奈と2人で居るの。楽だし楽しいし…。」
「あー分かる分かる。そう言うダチって居るよな。」
「そう…。だから佐奈さえ居れば新しい友達なんて要らないって言うか…そもそも三年目だとグループって決まっちゃってるし、今更新しい友達とかそんな雰囲気もないし…。」
しんみりと語る凛子にご愁傷様と内心手を合わせた。
今の凛子には悪いが、新太は今のクラスで楽しく過ごしているので思う所が一つもない。
思い返せばのらりくらりと誰とでも仲良くしてきた新太だからこそ、今の環境を手に入れたのだろう。
「あーあ。どこで間違えちゃったのかなぁ…。なんて、こんな言い方したら佐奈に失礼だよね?でもさ、本当ならこんなはずじゃなかったんだよ。まさか仲違いするなんて思わないしさ。」
「そうだな…。」
那智に無視をされてからの凛子は青春が終わったような気分だった。
格好いい那智、可愛い佐奈、その彼氏の虎、心を許せる新太。
全てが完璧で、このメンバーさえ居れば他は何も要らないと本気で思っていた。
それが一つ崩れ落ちたのをキッカケに、青春が終焉を迎えてしまった。
残ったのは後悔と虚しさ。
誰にでも優しくする佐奈とは違い、凛子は決まったメンバーとしか接してこなかったため、友達の作り方を忘れてしまっていた。
格好いいと思っていた生き方が違うと分かった今、佐奈と新太ぐらいしか話せる人が居なかった。
「私って馬鹿みたい…。」
「……。」
本気で落ち込み始めた凛子に新太は溜め息を吐いた。
「で、何食いたい?」
「え?」
「アイスぐらいなら奢ってやるけど。」
「っ…良いの!?いや…やっぱり良いよ…悪いし…。」
「何だよ。ころころ意見変わるなぁ。」
急に謙虚になった凛子に新太は吹き出して笑った。
本気で申し訳なさそうに話しているのを見れば、さっきの発言が冗談だったことが伺える。
その様子を見ているうちに、新太は益々奢っても良いという気分になってきた。
「本当に良いのか?」
「うん。それより夏休みどっか行こうよ。パァッと遊ぼう!」
「…本当は男子と下校しちゃ駄目なんだろ?」
「良いの良いの〜。八尋とか眼中にないから!」
「一回シネ。もう絶対何があっても奢らないからな。それにお前の方が金持ってんだろ。」
「持ってないよー。」
ようやくいつもの調子に戻ってきた凛子に新太は満足げな表情を浮かべた。
こうやって笑い合っている方が断然良い。
「嘘付け。」
「ホントホント。モデルってお金にならないんだよ?衣装とか化粧品とかお金が掛かって毎月大変。私なんてまだまだ駆け出しだから余計に…。」
「へぇ。意外に大変なんだな。」
「そうそう。奢る気になった?」
「行き着く所はそこか。どっちなんだよ、馬鹿か。馬鹿なのか。」
笑い声を上げた凛子を見て、新太は次の言葉を考える。
2人の言葉遊びは別れ道まで永遠と続いた。
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