12
「那智とアイツ、付き合うの時間の問題だよな。」
「アイツって?」
学校の帰り道、唐突に投げ掛けられた質問に凛子は疑問符を浮かべた。
那智の名前など随分聞いていなかった為、新太が誰を差してそう発言したのか見当も付かなかった。
「芳野日奈。姉の方。」
「あぁ…あの子。」
うっすらと記憶の片隅に居る佐奈の姉を思い返す。
一年の頃に同じクラスだったが話す機会は一度もなかった。
佐奈との間で話題に出る事もないので、凛子は見て分かる情報以外で日奈のことをあまり知らなかった。
「那智も変わり者よね。こんな美人が近くに居ながらあんな子と連むだなんて…。」
しかし“那智の趣味が変わった”と噂程度には聞いていた。
その相手が日奈という異質な存在であるという事は、何かの気紛れか新しい遊びとしか思えない。
あれだけ嫌っていた日奈に対し、那智が今更恋愛感情を持つとも思えなかった。
「何であんな子と一緒に居るんだろ…。まさか好きになっちゃったのかな?」
「いやいやまさか。那智は自分より下の立場の人間を置いておきたいだけなんだ。あいつプライド高いし上から目線キツいじゃん。」
「そうなんだ?」
凛子は那智の今までの態度を思い返してみた。
確かに言われてみればそんな気がする。
確証はないが腑に落ちる所はあった。
「確かにねぇ…那智って何考えてるか分かんないし案外似たもの同士でお似合いかも?」
「お前……結構キツイな。前は引っ付いてた癖に、これだから女って。」
「だって!…何もしてないのにずっと無視されてるし…嫌な気分になるでしょ?しょうがないでしょ!」
「そんなに怒んなよ…。」
新太が呆れるのも無理はなかった。
何故ならば、半年前までの凛子と那智は周りが付き合っていると勘違いするほど仲が良かった。
そんな二人が今では廊下ですれ違っても目さえ合わさない。
那智はあからさまに凛子の存在を無視し、凛子も見て見ぬフリを決め込んでいる。
「怒ってないよ…別に…。」
凛子自身、自分がずけずけと踏み込みすぎた点は嫌なくらいに反省していた。
それは那智を怒らせたあの瞬間を思い出す度に自己嫌悪に苛まれ、深く後悔の念が押し寄せるほどに。
半年経った今でも那智の事を考えるだけで襲われるそれに、凛子は恐怖さえ抱いていた。
それなのに謝罪をする機会を与えてもらえず、あっという間に時ばかりが経ってしまい、遂には諦めを決心する境地に至ってしまった。
まるで逃げるように凛子を避ける那智を見ていると、どうやって話していたのかも忘れてしまっていた。
「でももう良いんだ…。那智って皆の事も避けてるんでしょ?だからそこまで気にはしてない。」
凛子は思う。
佐奈には虎が、那智には日奈が、自分には新太が居る。
収まるところに収まった今の状況はそこそこ幸せなのではないかと。
ただ、凛子は新太とどうこうなるつもりはまるでなかった。
以前凛子は、新太が佐奈を好きだと知った時に嫉妬心を抱いたが、それはあくまでも異性としての認識があったという事実が判明しただけであって、特別な感情が生まれた訳ではなかった。
そもそも凛子にはモデルとしての夢がある。
過去の恋愛から依存体質だと自己分析している凛子は、今は恋より夢を第一に考えて過ごしたいと思っていた。
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