11
チャイムの音と共に日奈が教室へ入ってきた。
那智はそんな日奈に興味深々と声を掛けた。
「寝坊なんて珍しいな。」
「…最近、徹夜続きだったの。」
「へぇ、とうとう勉強でも始めたか?」
「……。」
日奈はその問い掛けに躊躇して言葉に詰まる。
しかし何時までも返答を待つ姿勢の那智に、答えるしか選択肢がないのだと口を開いた。
「プレゼントを、作ってた。」
「プレゼント?」
「昨日、虎君の誕生日だったんだよ。」
「あぁ……なるほど。」
日奈が渋った理由はこれだった。
虎の名前が出た途端、あからさまに嫌そうな顔を那智はした。
どうやら佐奈の話では、那智や新太、凛子など、虎の友人は誰一人として来なかったらしい。
虎本人は口にしないものの落ち込んでいるに違いないと、この状況を作った一因である佐奈は罪悪感いっぱいにそう語った。
そして昨夜はせめて自分が側にいて皆の分を埋めるんだと、二人一緒に過ごしたらしい。
寝不足も多少はあるが、実はこんな話を朝からしていて遅刻してしまった。
「わざわざプレゼントね…マフラーでも編んだか?」
「そんな大層なものは作れないよ…。」
冷たい空気が流れたままに担任が教室へ入ってくる。
号令、朝のHRが始まった。
「それで、あいつらは?」
「私には、分からない…ごめんね。」
「あっそ。役立たず。」
「…気になるなら行けば良かったのに。」
「チッ…シネ。」
図星とばかりに那智は黙り込んだ。
いつも日奈に幼なじみの動向を聞いて、これでは未練があると言っているようなものだ。
新太とは和解したものの、クラスが違うため自然と距離が出来た。
凛子とは冷たくして以降、互いに目を合わせる事さえなくなった。
虎とはもう何ヶ月も話していない。
最後に話したのは去年起こったあの事件が最後だ。
佐奈の隣には虎が居る。
佐奈を避けるなら、自然と虎のことも避けるしかなかった。
「幼なじみって特別なんだよね、きっと。」
「だから…?」
「だったら、いつかは分かり合えるはず。今は、何も心配しなくて大丈夫。」
「何を根拠に?」
ハッキリ大丈夫だと言い張った日奈に那智は純粋な疑問を感じた。
何故そこまでハッキリ言えるのか、果たしてその言葉の根拠は何なのか。
知れるものなら教えて欲しかった。
「根拠はないよ。私の感、かな?」
「あー…真面目に聞いた俺が馬鹿だったわ…ふざけんな…。」
「でも、女の感はよく当たるって。」
「お前っ…!自分が女だって自覚あったんだな!?つーかその外見でよくもまぁそんな台詞を…やっべ…、」
沸々と笑いが込み上げてきた那智は肩を震わせて笑い出した。
口を手で押さえて笑い声を無理やり抑える。
お腹が痛くなるくらい面白かった。
「あー腹痛い…ヤベェ、マジヤベェ…。」
「そんなに可笑しかった?」
「普通に可笑しいだろ。まぁ、女の感…?参考にさせてもらうわ。」
尚も笑いが止まらない。
ツボに入った那智はニヤニヤしながらそう言った。
大変失礼な反応ではあったが、楽しそうで何よりと、日奈は内心ホッとした。
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