08
「あの、今日妹さんは?」
「え?」
突然そう切り出したのは悠だった。
その場に居た人全員が頭に疑問符を浮かべる。
間もなく、悠の質問の意味を理解した忠志が不思議そうに答えた。
「もしかして日奈の事かな?日奈は佐奈の姉なんだよ。」
「そうだったんですか…すいません、よく知らなくて。」
「いやいや、あの子はいつも来るだけ来てすぐに帰るから…。考えがよく分からない子で…。」
本当に困ったように忠志は言った。
あぁそうなんですかと悠は適当に返事をし、内心興味深く思う。
悠と日奈が出会ったのは既に二年前の出来事だ。
去年は慌ただしく、日奈と出会うことがなかった。
あのぬいぐるみの一件以来、どうも日奈の存在が引っかかっていた悠は二年振りに会いたいと密かに思っていた。
それから悠は隙を見て会場を抜け出した。
日奈に会える場所と言えばあそこだろうと、二年前に出会ったプレゼント置き場へ向かった。
「ビンゴ。」
以前は部屋が薄暗かったが今年は電気がついている。
中を伺えばぬいぐるみに何かを施している白いワンピースの少女がおり、一目で日奈だと分かった。
「ここは関係者以外立ち入り禁止です。」
「っ…!」
「どうも、雛鳥の日奈ちゃん。二年ぶりだね?覚えてる?」
悠はニコリと笑いかけながら日奈に近付いていった。
日奈はハッとして頭を下げる。
「すいません。すぐに出て行きます。」
「大丈夫。さっきのは冗談だよ。虎にプレゼントだよね?」
「はい…約束なので。」
二年前にも聞いたその台詞。
あの虎と目の前に居る少女が何か秘密の約束をしていることが内心可笑しかった。
虎にしても日奈にしても、ロマンチックなこととはまるで結びつかない。
そのため、悠は余計に可笑しかった。
「そう言うの興奮するよねー?虎とはそう言う深い関係?」
「いえ…何も。」
「えー本当?本当は虎が好きなんじゃない?」
「……出来ました。帰ります。」
白いクマのぬいぐるみを見れば、可愛い洋服が着せてあった。
手作りだろうかと思いつつ帰ろうとする日奈の邪魔をする。
もう少し掘り下げたかった。
「はぐらかさなくても虎には言わないよ。」
「……。」
「何だったら取り持ってあげようか?僕、日奈ちゃんの為なら何だってするよ?」
もちろん悠は、虎が佐奈と付き合っている事を知っていながら発言している。
あくまでも知らない体で話すのは面白い。
キャストがキャストなだけに悠は楽しそうに笑った。
「虎君には佐奈ちゃんが居るから…。」
「関係ないよ。好きなら素直にならないと。」
「…いえ、私はそんな風に思っていません。約束は幼い頃の口約束で、今更辞めるのが気持ち悪いだけです。」
「へぇ…。」
押せば何かが崩れるだろうと攻め込んだはずが、芯の通った綺麗な声が悠の口を黙らせる。
案外物をハッキリと言う日奈に悠は意外そうな顔をした。
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