10
春の終わり、夏の訪れと共にそれはやってくる。
『悠さん、虎さん、お誕生日おめでとう御座います。』
芳野と昔から親交のある紅林家主催のパーティーは、毎年夏の終わりに開催された。
名目は会社の取引先との交流会。
そして紅林家の息子である紅林悠と虎の誕生日パーティーも兼ねていた。
二人は四つ年齢が離れているが、奇跡的に誕生日が同じ日だった。
「毎年毎年良くやるなぁ、」
「金が有り余ってるんだろ。」
大々的に行われる誕生日会には、那智と新太も呼ばれていた。
「ねぇ那智、おじ様ばっかでつまんない。」
「仕方がねぇよ。芸能界と違って会社の人間なんてこんなもんだって。」
佐奈の誘いで初めて参加した凛子は、若者の少ないパーティーに少々気を落としていた。
綺麗なものが何よりも大好きな凛子らしい感想だ。
やはりと言うべきか、モデルである凛子は嫌でも目立つ。
高校生だと知らない周りの大人達はいつ声を掛けようと瞳孔を開いていた。
『ロリコンが。』
高校生には見えない美貌を振り撒きつつ、内心舌を出す。
凛子は那智の腕に腕を絡ませて恋人らしく振る舞った。
そして絶対に声をかけられないよう那智の腕に自身の胸を押し当てた。
「凛子、佐奈はどこ行ったんだ。今日一緒に来たんだろ?」
密かにおじ様達への抵抗をしていれば新太に聞かれた。
凛子より3p低い身長がヒールのお陰でもっと差がついている。
新太は特別綺麗ではないが言うほど嫌いではなく、だからと言って好きでもなかった。
「お父様と挨拶周りだって。」
それを聞いた新太は主役をそっちのけで佐奈と父親を探し出した。
「お久しぶりです。征志さん。」
「悠君。大学はどうだい、順調かい。」
「えぇ、もう二年目ですから。相変わらず充実した日々を送っています。大学生活は楽しいですよ。」
そう言って悠は笑った。
隣には弟の虎と紅林の父も居る。
「それよりも佐奈ちゃん、また随分と綺麗になりましたね。」
悠は佐奈に目をやる。
化粧を以前より覚え、髪も染まった佐奈は垢抜けて綺麗になっていた。
悠が微笑むと佐奈は照れて俯く。
虎もイケメンではあるが、悠の180を超える長身と男らしい端整な顔立ち、それを縁取る黒い髪は虎とは違った大人の色気を放っていた。
「悠君は年々男前になっていくね。」
「それを言えば征志さんだって年々渋くて男前になっていますよ。」
「私は老けていくだけさ。」
そう言って軽く笑う。
「しかし悠の言う通り、佐奈さんは本当にお綺麗になっていく。…どうでしょう。是非うちの息子達の嫁に来てくれませんかね?」
紅林の父は笑って話した。
それを聞いた虎は少しムッとする。
『好き勝手に言うなよ。』
父が自分達のどちらかを佐奈の相手にと、真面目に考えていることを知っている。
佐奈の事は好きだが人に言われて良い気はしない。
「私としても君達が息子になるなら大歓迎だ。」
「パパったら〜…もう、気が早いよ…。」
顔を赤らめ恥ずかしそうに佐奈が言う。
その目線の先はずっと悠へ一直線で、チラチラと潤んだ瞳で見ては恥ずかしそうに逸らしていた。
つまり満更でもないらしい。
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