08
夏目が来るといつもそうだった。
幼い頃からパシりに使われ、気に入らないと叩かれる。
そんなに力を入れてなくても大柄な夏目の手で叩かれれば痛いものは痛い。
酷い時は日奈を蹴り、ストレス発散の捌け口としていた。
「夏目さん…おつまみもすぐに出来ますので…、」
出てきた夏目にペコリとお辞儀し再び調理を再開する。
夏目も流石に包丁を扱っている時は暴力を振るわない。
「ほんとお前は変わんねーな。」
「…すいません。」
「もっと佐奈を見習えよ。…まぁアイツ化粧ケバくなっただけだけどなぁ…お前は論外なんだよ。オイ聞いてんのか?」
机の下でガンッと脚を蹴られた。
夏目はそれを気に入ったのか、リズムを刻むように脚をガンガン蹴り続ける。
日奈は出来るだけ脚が後ろに行かないよう配慮した。
また先程のように後退れば、今以上に酷い目に合うのが目に見えていたのだ。
「………。」
「………。」
脚を蹴りつける音とワインを飲む音ばかりが部屋に響く。
「つまんねぇ奴。見た目も中身もくだらねぇ。」
「………。」
これ以上謝ると怒られるのを日奈は知っていた。
被害を最小限に抑える術はただ一つ。
何も話さず、彼の暴力を受け入れる事だけだった。
「ほんと、生きてる、意味ねぇな!」
「っ……、」
言葉を区切りながらガンガンと今まで以上に強く蹴り…
最後にワインを日奈に目掛けてぶっかけた。
「目障り、消えろ。」
「……。」
日奈は無言で立ち上がり先程放置した紅茶のタオルを手にとって脱衣場へ向かった。
紅茶に染まった白いタオルを湯を張った桶に入れる。
ポタポタと髪の毛からはワインの雫が落ち、白いワンピースに染みを作る。
床にもポツリポツリと跡を残してしまった事に気付き『後で拭かないと』と考えた。
自身の部屋を他人に追い出されるとは不思議な話だが、日奈にとっては当たり前の日常だった。
ワンピースを脱いで熱いシャワーをかける。
こうなれば全部洗ってしまおうと、下着も脱いで頭からお湯をかぶった。
また何か言いつけられる可能性もあるので、一通りお湯をかぶってシャワーを止めた。
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