07

「はるとさん…?続き、してくれないの?」


佐奈はウルッと切ない声で引き止める。


「征志さんが来たらどうするのかな?」

「パパなら来ないよ…来たことないもん、だから…」

「佐奈ちゃん。今日はお酒も入ってるし疲れてるんだ、ごめんね?」

「…もう一回、チューして?」


夏目は佐奈の可愛い声にキスで答えた。

唇を離し、頭を撫で、髪の毛にキスを落とす。


「お休みなさい、佐奈ちゃん。」


夏目はニコリと綺麗な顔で笑いかけた。




佐奈の部屋を出た夏目は口元をソッと拭うと、慣れた足取りで芳野の豪邸を歩いた。

行き先は今日泊まる部屋ではない。

奥まったところにある、彼女が唯一安らげるあの白い場所。





扉の開く音と共に入ってきたのは夏目遥斗であった。

日奈は事前に用意していた紅茶をティーカップに注ぎ「どうぞ。」と控え目な仕草でテーブルに置く。

夏目はチラリと紅茶に視線を向け、長い指を取っ手に絡ませると優雅な仕草で持ち上げた。

ティーカップがよく似合う。






「いらねぇよ。」

「っ……」


夏目は日奈の入れた紅茶を床にぶちまけ、ティーカップをテーブルに戻した。

そして一歩、また一歩と日奈に近く。

条件反射で少し後退ってしまった日奈を見て、苛立ちを覚えた夏目は日奈の脚を軽く蹴りつけた。


「っ……」

「何もしてねぇのに何逃げてんだ。俺を不快な気分にさせるな。」

「ごめんなさい…、夏目さん…。」

「風呂入るから酒用意しとけ。飲み足んねぇ。」


夏目がズカズカとお風呂場に入ったのを見届けた後、日奈は金縛りが解けたように急いで動き出した。

まずバスタオルとハンドタオル、来客用の衣類をまとめて用意し脱衣場に置く。

次に部屋を飛び出すと急ぎ足で下の階へ行き、夏目の好みそうなお手頃なワインを探した。

どこか盗人の気持ちで『パパ、ごめんなさい。』と内心謝る。

高くもなく安くもない一本を手に日奈は部屋へ戻った。

芳野の家は豪邸の為、往復するだけでもだいぶ時間がかかる。

気が休まらなかった。




日奈が部屋へ戻るとまだシャワーの音がしていた。

ワインをテーブルに置き、グラスを軽く洗って設置する。

先程夏目が零した紅茶をタオルで拭き取った所でシャワーの音が止まった。


「間に合わない…、」


日奈は紅茶に染まったタオルをひとまず端の方へ起き、手を洗って摘みの準備を始めた。




7/44ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!