06
「来て。」
悪夢は前触れもなくやってくる。
いつも通り自炊をしていると部屋に佐奈が来た。
たったこれだけの二文字で日奈は今から起こるであろう事を察し、作りかけの食材を放置して急いで部屋を出た。
これは佐奈が面倒そうな声を出したからではない。
人が訪問したからだ。
「佐奈ちゃんお帰り。日奈ちゃん、久し振りだね。」
ニコリ。
まるで王子様のような風貌で自分達に笑いかけるこの人は、6つ離れた親戚の夏目遙斗だった。
母親がロシア人である夏目は綺麗な青色の瞳を細め、佐奈の椅子を優雅な仕草で引いた。
日奈は夏目に手間を取らせないように自ら椅子に座り姿勢を正した。
今この部屋に居るのは日奈、佐奈、夏目、そして芳野征志。
日奈達の父だった。
「食事の時ぐらい髪を束ねなさい。遙斗君の前で失礼だろう。食事が不味くなる。」
「征志さん、大丈夫ですよ。日奈ちゃんを呼んだのは僕ですから。」
父の冷たい声を夏目はやんわりと制し「冷める前に頂きましょう。」とその甘い顔に笑みを浮かべた。
そこからは長い時間だった。
夏目の大学生活の話やいずれ父親から継ぐ会社の話。
佐奈の楽しそうな笑い声。
日奈だけをポツリと置いて時間が過ぎる。
「では僕はそろそろ…使用人の方に運転をお願いしても…、」
「遙斗さん、今日は泊まっていけば良いじゃない。大学はもう夏休みなんでしょ?」
「佐奈の言う通りだ。お酒も入っている事だし…たまには佐奈の勉強でも見てやってくれないか。」
「そうですね…ではお言葉に甘えて。」
佐奈と父の申し出はあっという間に受け入れられ、夏目は芳野の家に一泊する事となった。
「お先に失礼します。」
父が部屋を去り、続いて日奈が席を立った。
そして部屋に戻ると、途中で放り出した食材を全て早急に片付けた。
「遙斗さん、本当に久し振りね。」
夏目を自分の部屋に招き入れた佐奈は嬉しそうに話した。
虎や那智も美形ではあるが、夏目の美しさは群を抜いている。
佐奈は惚れ惚れとしながら夏目に抱き付いた。
「遙斗さん…」
ソファに並んで座った瞬間、佐奈は夏目に跨がってキスをした。
夏目は佐奈を暫く受け入れて優しい手付きで顔を離した。
「はるとさん…もっと、チューしたいな…、」
大きな瞳を潤ませて夏目にキスを強請る。
そんな佐奈にもう一度キスを送り優しくソファに押し倒したが、すぐさま身体を離して夏目は立ち上がった。
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