03
「帰ってくんのが遅いのよ。」
日奈が掃除を終わらせて帰宅すれば、可愛い顔に苛立ちを浮かべた妹の佐奈が待っていた。
「佐奈ちゃん、ごめんね。」
今日はじめて話した言葉は小さく、ほんのり掠れていた。
「私が帰ってくるまでに部屋掃除してって言ったじゃん。」
「ごめんなさい‥学校で教室の掃除をしていたの。今から掃除するね。」
「佐奈〜、あの雑誌だけどさぁ……あーあ、放課後まで嫌なもん見ちまった。」
佐奈の部屋から出てきたのは那智だった。
扉の隙間からは虎、新太、女の子の声も聞こえる。
「那智、日奈が話があるみたいで‥ちょっと待ってて?」
「…コイツに話す事なんてあんのかよ。」
那智は奇妙そうな表情を浮かべ部屋へ戻っていった。
申し訳なさげな顔をしていた佐奈は再び怒りの表情に戻し、日奈を少し離れた場所まで引っ張っていった。
「役立たず、もう良いし消えて。」
そう言うと佐奈は友人達の待つ部屋へ戻っていった。
日奈と佐奈は年子の同級生だった。
当然同じ学校で過ごしてきた為、佐奈の友人は日奈との姉妹関係を知っている。
それを誰よりも快く思っていない佐奈は日奈を利用出来る所は利用し、常日頃自分の言いなりにさせていた。
「また怒らせちゃったんだ…、」
シュンとして日奈は自室へ向かう。
一番上の一番奥まった部屋はどこもかしこも真っ白な空間で、壁や床は勿論、机や椅子、ベッドまでが白で統一されていた。
日奈は鞄を置いて手を洗うと食事の支度を始めた。
いつの日からか用意されなくなった食事が今では趣味の一つとなっていた。
野菜を洗いトントン包丁で切っていく。
この部屋には台所、お風呂、トイレと生活するには充分な設備が備わっていた。
トントントントン。
楽しそうな音が響く。
日奈にとって何よりも穏やかな時間だった。
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