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「私はあの時死にました。」


日奈が20歳となった春の日、ある一室でカウンセリングが行われていた。


「日奈ちゃん…何度も言ったけどアナタは生きているわ。」

「物理的にはそうです…。でも死にました…。」

「じゃあここに居るアナタは何者かしら…?」


そう問われた日奈は一通り考えた後、ニヤリと不気味に笑って答えた。


「死に損ないと考えたこともありました。でも今は少し違う…。私はある意味、新しく生まれ変わったんです。」

「つまり…?」

「良い意味で死んだと例えただけですよ…。あくまでも前向きな気持ちです。」


日奈は大人を欺くように、目の前の大人が納得しそうな綺麗事を並べ立てた。

本心を話した所で理解はしてもらえないだろうと踏まえた結果だった。

何より、日奈の中では考えがハッキリしていると言うのに、わざわざ話さなければいけない今の状況は煩わしくて仕方がない。

日奈の為と言いながら、結局は大人達が安心したいが為の対話である。

それならば、大人が望む通りの会話をする他なかった。


「明日からの新しい生活について思う所はありますか?」

「特に何も…少し楽しみなくらいです…。」

「そう、それは良かった。相手の方とは上手くやれそう?」

「えぇ…彼は私の鏡なので。」


“彼”を鏡と表した日奈の頭の中には、ある人物が思い浮かんでいた。

まだ彼の全てを知った訳ではない。

それでも何故か、鏡のようだと感じてしまった。


「彼を愛しているの…?」


その質問を聞いた日奈は心の底から面白そうに笑った。




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あきゅろす。
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