山田行道と天使
早くも年が明け1ヶ月が経った。
世間ではバレンタインムードとなり、どこもかしこもチョコだピンクだハートだと賑わっていた。
ここ畠山学園でも生徒達のテンションはバレンタイン一色で、風紀が事前対策を練るほど話題の中心はバレンタインだった。
「なぁなぁ柿田ぁ〜。」
「……。」
「無視すんな。」
「…何。」
「バレンタイン、どっちが多く貰えるか勝負しようぜ。」
「…果てしなくくだらん。」
ここに浮かれてる生徒が一人、山田行道である。
勝負を申し込まれた柿田優一は呆れた顔をし手元の小説に視線を戻した。
「相変わらずつまんねぇ奴。」
「くだらん奴にだけは言われたくない。」
浮かれる山田と興味なさげな柿田。
あれから酷い喧嘩をする事はなくなったが、年を明けようが喧嘩がなくなろうが、二人が何かと正反対であることだけは変わりなかった。
そしてバレンタイン当日。
校内では甘いお菓子の匂いが蔓延し非常に賑わっていた。
山田行道は女好きという悪評とも取れる噂を流されてしまったが、元々モデル級の美男なだけに今年も沢山のお菓子を貰っていた。
「ラッキー。」
本当に思っているのか思っていないのか…
知るのは本人のみだが、山田は貰ったばかりのお菓子を頬張りながら廊下を歩いていた。
そんな山田が角を曲がった時、勢い良く走っていた生徒と運悪くぶつかってしまった。
「いって、」
その拍子に山田が貰った沢山のお菓子が床に落ちる。
本当に運が悪かった。
「たたッ、スイマセン!」
「ッいえ、大丈夫っす。」
山田は体格が良いので尻餅をつく事もなく目の前の生徒を受け止めていた。
─ こんな事、前にもあったな。
フと、以前出会った可愛い女の子を思い出した。
頭の隅でそんな事を考えつつ山田は目の前の生徒の顔を見る。
「ぁ…、」
「っ……あ、あの、スイマセン。急いでいるので!」
「ま、待って!」
余程急いでいるのか…
ぶちまけたお菓子を拾いもせず足早に立ち去ろうとする彼女を山田は引き止めた。
だが、山田にとってぶちまけたお菓子など最早どうでも良かった。
山田は彼女自身に興味があったのだ。
─ 運命では無かろうか。
山田は真剣に考えて彼女をここに引き留めていた。
山田が引き止めた彼女、それは以前肩がぶつかったあの生徒だった。
─ なんたる運命、まさかこんな日に会えるとは。
彼女の腕を引き山田はニコリと微笑んだ。
「あのさ、前に廊下で…」
「っ、ヤバい!逃げないと!」
「は?」
彼女が意味不明な事を発した直後、バタバタと数人の足音が聞こえてきた。
何が何だと若干のパニックに陥った山田の腕を彼女はグイッと引いた。
そして二人は近くの男子トイレへ入りその身を固めた。
「え?え?……え?」
「るさい。静かに。」
「あ、はい。」
放心状態の山田行道を睨む天使。
山田は彼女と共に息を潜めながら状況を把握しようと努めた。
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