山田行道と優一

「なんで、」

「…ぇ、」

「俺なんかのどこが良いの。意味わかんねぇ。」

「俺はッ…」

「お前にはもっと良い奴居るって。な?いい加減分かれよ。」


山田は混乱していた。



一瞬でも優一を、可愛いと思ってしまった事に。



泣きながら笑う優一は、確かに山田が好きになった『恭子』だった。

身なりも性別も違うというのに、自分が好きになった彼女が実は"優一自身"である事を自覚してしまった。

今まで頑なに否定していた事だ。

優一に期待させて陥れようという浅はかな考えも、決して本気ではなかった。

ただ、予防線のような‥自分を守る何かが欲しかっただけ。

結果として分かったのは、山田行道の心を奪った人物が目の前にいる紛れもない柿田優一であるということ。

今日この場にきた時点で分かりきっていた答えに辿り着いただけであった。

本当は分かっていた。

ただ、認めたくなかっただけ。


「なんで、なんで俺なんだよ…」


もう山田の頭はパンク寸前だった。


「優一、綺麗だし…相手なんてすぐ見つかるって。それに今日の優一は可愛いから、」

「……、」

「俺じゃなくても、」


山田の目にうっすら涙が溜まる。



『今日の恭子は可愛い。』



そう言って自宅まで送ろうとした最初のデート。

今となっては懐かしい思い出だ。

それも今日は、自分以外の誰かを勧める…諦めさせる為の冷たい言葉となった。


「俺じゃなくても良いだろ…?」

「っ、そんな、そんな簡単に言うなよ!」


絶望に満ちた優一が言う。


『貴方は優一のどこを好きになったの?』


不意に恭子の質問が頭を過ぎった。

最初はいつもの一目惚れ。

だけど次第に自分の知らない性格に惹かれて…彼を好きになった。

恭子ではなく、本当の優一を好きになった。


「お前こそ、簡単に言うなよ。俺ら男同士だぞ?彼女が男で、しかも弟で、友達で…俺の気持ちも考えろよ。」


チャンスと言っていた山田の口が彼の存在を拒否してしまう。

頭で理解していても気持ちがついていかないのだ。

無意識で言った山田の言葉に優一が唇を噛んだ。

好きなはずなのに…

二人はもう、ボロボロだった。


「そう、だよな…もう、友達にも、戻れないよな、」


背を向けた優一が震えた声を出した。

何となく、泣いているのが分かる。


「分からない。」


山田は呆然と答えた。

優一を好きだという気持ちと、優一を否定したい気持ちがぶつかって何とも言えないのが本音だった。

相反するものを同時に抱く苦しみを山田は初めて知った。



─ 優一の苦しみもこんな感じだったのか



この状況になって色んな側面が見えてくる。

全て彼らに出会ってからだ。

今まで知ることのなかった感情を山田は沢山知った。


─ どうしたら、どうしたら二人とも幸せになるのだろう。


そう考えた時、山田はある事を思い出した。


「日高が言ってた。何回もデートして、付き合って、手繋いで、チューして…それが普通なんだろ?」

「え……」


山田の言葉に、優一が固まる。


「時間を、くれないか。」


山田にはまだ分からない。

何が正しいのか、何が本当なのか、何が本音なのか。

たった一つの答えなんてそう簡単には見つからない。

ただ、彼を拒絶して縁を切るには山田にしても優一にしても未練がありすぎた。


「すでに順序可笑しいけど、最初から始めねぇか。」


山田の答えは出ていない。

なのに何故だろう。

不思議な事に少しだけスッキリした気分だった。

日高が放ったいつかの発言が前へ進む為の道標になるなんて思いもしなかった。


山田は震える背中に投げかける。


「もう一度、恋愛しよう…俺と、」



『 優一 』で…ー





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あきゅろす。
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