山田行道の欲望
あれから山田達は進級し、三年生となった。
山田と恭子が付き合い始めて既に1ヶ月経ったが、山田の熱が冷める事は果てしなく有り得なかった。
「恭子〜。」
「っ…止めて下さい。」
「まぁまぁ、怒んなよ。」
山田はにこやかに笑いながら、待ち合わせ場所で会うなり恭子をギュッと抱き締めていた。
恭子は頬をピンク色に染めて抵抗する。
そんな嫌がる素振りも可愛いと山田は満面の笑みを浮かべていた。
「恭子、手。」
「……、」
初めの方こそ餓えた狼のようにいつ手を握ろうかと狙いに狙っていた山田だったが、あまりの欲望の大きさに最近では開き直っていた。
俺は手を繋ぎたいんだ!
好きだ!
と夜道で叫んだのは記憶に新しい。
山田は恭子の手を取ると歩き出した。
会う度にこうして手を繋いでいるが、未だ興奮は収まらない。
恭子に触れれば触れるほど山田の欲望は燃え上がった。
最早破裂寸前の瀬戸際だった。
いつも通り二人はまったりとした時間を過ごし、デートの最後には公園にいた。
人っ子一人居ない夜の公園。
少し錆び付いたベンチに二人で腰掛けた。
「なぁ、恭子ー。」
「…何ですか。」
「俺のどこが好き?」
山田は唐突に問いかけた。
恭子に未だ好きと言われた事がない山田は恭子にどこが好きか言って欲しかった。
何か一つだけでも良い。
本音を言うなら素直に好きだと言って欲しいが…出来れば具体的な理由も欲しかった。
「いきなり、ですね。」
「そうか?」
恭子は考える素振りをする。
その隙を見て山田はチャンスとばかりに恭子と距離を縮めた。
恭子が隣に座る時、少し離れた位置に座ったのだ。
それが気に食わなかった。
「何逃げてんだよ。」
「…別に。」
またしても、恭子が逃げるように少し間を空ける。
山田は不機嫌になりながら、恭子の肩に腕を回して身体ごと一気に距離を詰めた。
肩も足も頭も…全ての距離が近くて…。
山田は今のくっついた状態をわざと作った。
「なぁ、俺の好きな所、教えて。」
潜めたような小さな声で山田は言った。
空いてる方の手が恭子の手に触れる。
手遊びをするように二人は互いの手を触った。
「なぁ、俺のどこが好き?」
絞り出したような小さな声に恭子の肩が揺れる。
恭子は山田の胸に身体を傾けると、その胸に顔を埋めた。
「山田の癖にムカつく。」
「…なにそれ。」
「…全部、スキだよ。」
山田に釣られたように恭子も絞り出したような切ない声を出した。
その掠れた声に山田は今までにないくらい興奮した。
─ もっと 触りたい。
山田は純粋に思った。
誰も居ない、静かな公園。
好きな人と二人っきりの薄暗いベンチ。
この状況が作り出した雰囲気も手伝って、山田の欲望は止められぬ所まで達していた。
「キスしよっか。」
そう言った山田の目は恭子の唇しか見ていなかった。
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