14
「平村。」
もう行くのかと思ったら、手島越しに声がかかった。
もう吉沢の顔は見れない。
見たら泣いて全てをぶち壊してしまいそうだった。
俺は手島の頭に隠れて俯いて、やっぱり目の前の背中を見つめ続けた。
「金井が100ならお前も100だ。だから自信持てよ。」
「っつ……、」
バタバタと走っていく音。
吉沢は行ってしまった。
「うぅ…、う…、」
しゃがみ込んで泣く。
もう耐えきれなかった。
例え嘘でも、優しさでも…吉沢の中の俺が100で良かった。
「頑張ったな。」
手島の優しい声を近くで聞いてもっと涙が出た。
そうだよ、俺は頑張ったんだよ。
吉沢の幸せの為に…最後まで嘘を突き通した。
涙も本音も全部隠して、吉沢の為に笑ってやったんだ。
「ばかみたいだっ…ほんとのオレはよしざわの中には居ないっ…!」
「んなことねぇよ…ちゃんと優しいお前がアイツん中には居る…。平村がアイツに与えたもんはいっぱいあるし、全部本当だ。」
「だって…おれ、おれは、あんなにキレイじゃないのにっ…、」
「それが成りたい自分だったんだろ?それを突き通したって事は理想を自分のもんにしたんだよ。」
手島は横に座って俺の背中をさすった。
最後の最後までやっぱり手島は側に居てくれる。
手島は優しい。
何で吉沢じゃなくて手島を好きにならなかったんだろう…なんて考えた。
「なんてオレ、ばかだったん、だろ…っ…、」
「今更じゃねぇか…。でも、馬鹿の癖によくやったよ。」
壁に背中を預けて座り込んだ俺の隣に座って、手島は背中を擦りながら頭をポンポンと叩いてくれた。
いつも手島は暴力的で痛い事ばっかなのに…こんな時の手は驚くほど優しかった。
そんな事を思って泣いているとまだ廊下に若干残っていたクラスメートに声を掛けられる。
すると手島が俺の変わりに全部答えてくれた。
「コイツ感受性豊かなんだよ。」
「はは!平村は最後まで平村だな!じゃあ二人共またなー。平村も泣き止めよ!」
この後も何人かに話し掛けられたけど、全部手島が受け答えをしてくれた。
何だか可笑しくて笑ってしまう。
こんなに沢山の人に気に留めて貰えるくらい、いつの間にか知り合いが出来ていたんだなって今更に思った。
友達が居なかったのは昔のことで、確実に俺はこの三年間で変われたんだと思う。
不思議だな…こんなに幸せな事はないのに…俺は欲しかったものを手に入れたのに…。
やっぱり悲しい。
幸せなのに幸せだと思えないなんて…俺はなんて欲深いんだろう。
「あー…かなしいなぁ、」
「まぁ卒業式だし?つーかよ、お前が一番泣いたんじゃねぇの。」
「はは、そうかもな。」
でも悲しい時はずっと手島が居てくれた。
誰よりも怖くて誰よりも優しい不思議な人。
「オレのこと…好きだったりして、手島、」
「は?寝言は寝て言えよ。」
「だってやさしすぎる…。」
「お前が泣くからだろ?」
「泣かなくてもやさしい、」
少し落ち着いてくる。
制服の裾で涙を拭って、何とか視界だけは良くなった。
「まぁ俺も吉沢が100なら平村も100だしな。マジで良い例えだわ。」
「…俺も、手島は100だよ。」
「へぇ…それなら皆両想いで良いラストだったって終われるな。もう悲しくないか?」
手島が顔を覗いてくる。
涙の枯れた俺の顔を見てそう言った。
「まだちょっと悲しい。」
「さっきの今だしな。」
「手島…慰めてよ。」
「めんどくせぇ…。」
「ひどい…。」
ちょっとだけ笑う。
面倒くさいなんて言って側に居てくれる手島が可笑しかった。
手島は優しい、凄く優しい。
横に居てくれるだけで充分に慰めだった。
「これから可愛い彼女作る…。」
「おー作れ作れ。」
手島は笑って頭をわさわさ撫で回してきた。
俺も釣られて笑う。
「そんで吉沢に自慢するし。」
二人で顔を見合わせて笑う。
まだまだ俺は手島と吉沢に依存してやろう、なんて本気で思った。
また馬鹿のフリをして…ずっとずっと隣で笑っててやろうって思った。
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