04
(side:金井)


吉沢君はずっと遠い場所に居た人。

僕らに接点はなくて、同じ空間に居ても交わる事は決してなかった。

そんな彼が言ったのだ。

僕に好きだとはっきりと言った。


「夢みたいだ…。」

「うん、僕も…。」


恥ずかしくて俯く。

まるで夢みたいな現実で信じられなかった。

何度も諦めた恋心。

せめて友達で居れたら‥なんて些細な夢を大きく飛び越えてしまった。

頭の中は真っ白で、何を言えば良いのか分からなくなった。


「ぁ、平村君…。」


舞い上がって一瞬忘れかけていた平村君の存在を思い出す。

平村君は今まで僕から吉沢君を遠ざけるような言動ばかりしていたけど、最近はあからさまな行動が減っていた。

それだけにあの様子はかなりマズい。

平村君ならまた何かを仕出かしそうで怖くなった。


「平村君と話さないと…。」

「良いよあんな奴…よく分かんねーし…。」

「でも友達だから。話し合いたい。」


平村君の気持ちはよく分からない。

でも確かに僕に本心を明かしてくれていた。

そして自分の感情といつも戦ってたんだ。

だからもしこの結果が平村君を傷付ける事になったとしても…その痛みを和らげる方法を一緒に考えたかった。



急いで平村君の部屋に向かう。

吉沢君は乗り気じゃなかったけど、何か起こる前に話し合いたかった。


「手島君…平村君の様子どう?」

「今日はとりあえずソッとしといてやって…。」

「でも早めに話し合いたいんだ…。何か起こってからじゃ遅いし。」

「話すって…。」


手島君は渋ってなかなか部屋に入れてくれなかった。

扉の隙間から平村君は見えない。

やけに静かで何だか嫌な雰囲気だった。


「何か知んねーけど金井が話してぇらしいし、さっさと平村出せよ。」

「……。」

「なんだよ…。」


手島君が吉沢君を睨む。

そして無言で中へ招いてくれた。

僕は嫌な雰囲気を感じ取りながらも、ようやく部屋へ入る。

平村君は何もない床に座って、ぼーっと俯いていた。


「平村君…。」

「………。」

「ごめんね…?」

「何が…?謝って何か変わんの…?」

「……。」


平村君は何もない場所を見つめながら笑ってそう言った。

いつも通りだけどどこか痛々しくて言葉にトゲがある。

傷付いているのが目に見えて分かった。


「一緒考えたくて…平村君がこれからも笑えるように…。」


これは僕の本心だった。

僕が平村君に何が出来るのかは分からない。

でも出来る事があるなら平村君の為に何かしたかった。

手島君のように、平村君の幸せを願いたかった。


「そう言う所が嫌いなんだよ。そんな綺麗事なら要らない。」

「でも平村君は友達だから…。」

「は?友達なんかじゃないし…。ただ吉沢を近付けない為に監視してただけ。友達とか…笑えるね。」


馬鹿にするように笑われる。

それもそうだと思うけど、一緒に過ごした時間の全てがウソだとは思いたくない。

だって平村君は僕と向き合ってくれていた。

いつも真っ直ぐに何かと戦っていたんだ…。


「平村テメェ…本当はそんな奴だったんだな。」

「……。」

「幻滅したわ。」


吉沢君の言葉を聞いて、平村君の顔に笑顔が消える。

ぼーっと何もない所を見つめて、再び力なく微笑んだ。


「俺は、吉沢が好きなんだよ。」


一瞬で空気が止まる。

平村君は悲痛な声でそう告白した。


「吉沢と一緒に居れるだけで良かった。それだけで良かったのに…なんで、」

「……、」

「俺ら三人でやってきたじゃん。なのに今更なんで金井クンが…。こんな事なら二人が揉めてた時、仲裁なんてやらなきゃ良かった…。」


聞いた事がないくらい痛い声だった。

僕は驚いて声が出なくなる。

だって平村君の気持ちは僕と一緒だ。

北原君を取られるかもしれないって思った僕と同じ恐怖をずっと感じてた…。

ただ見つめていられるだけ良いって満足していたのに、いつの間にかそれ以上を求めていた僕と一緒。

そばに居られるだけで良いなんて…吉沢君が好きだなんて…まるで知らなかった。

この時初めて、平村君の本当を知った。




あきゅろす。
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