01

「今日吉沢に頭五回も叩かれたんだ。やばくね?」

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫ー、慣れてるからー。」

「慣れちゃうのもどうなんだろ…一体何したの?」

「抱き付いたのが二回と、首締めたのが一回。後の二回は馬鹿にした時で、最後の一回は吉沢の昼飯一個パクって食った時……あ、」

「五回じゃなくて六回だね。」

「…だな。」


あの日以来、平村君と話す機会が増えた。

放課後になると毎日僕の部屋を訪ねてきて、こうやって雑談をしていた。

それともう一つ変わったのは、あれだけ吉沢君の話をしたくないと言っていたのに話題の殆どが吉沢君だったこと。


「俺はサウンドバックかっての。」

「でも楽しそうだね?」

「楽しいよ。最近は特に。あれだな、やっぱり一回怒らせたから余計にかも。それに金井君とも仲良くなれたしな。」


ニコッと本当に嬉しそうな笑顔を向けられる。

恋愛…という意味でなら答えることが出来ないけど、純粋に友達としてなら凄く嬉しかった。


「金井は最近吉沢と話した?」


ただ平村君はたまにそんな質問をしてくる。

これはきっと確認だ。

自分が安心する為の確認に違いなかった。


「話してないよ。それに元々話す機会もなかったし。」


僕は本当に吉沢君と話す機会がなくなった。

最後に話したのは1ヶ月前の自動販売機の前だ。

あの時は欲に任せて「平村君に隠れてなら話せる」なんて言ってしまったけれど…。

結局は行動に移すこともなく自分で自分の首を締めた結果、怯えて過ごしただけだった。


「ごめんな…。無理強いさせてるみたいで。」

「…そんなんじゃないよ。元々見てるだけで良かったし。それに話して幻滅されるぐらいなら話さない方が良いかも…とか最近は思ってたり、」

「それはないって。むしろもっと好きになるんじゃないかな。…俺みたいに。まぁだから、あんまり話して欲しくないんだけど…。」


平村君は俯き気味にそう言った。

少しドキリとする。

ハッキリ言われた訳じゃないけど心臓に悪い。


「あ、吉沢からメールきた。」

「……、」


平村君は返信を打ち始める。

僕は暇になって適当にお菓子をつまみ出した。


「一緒にご飯食べようだってさ。最近スゲェ誘ってくんの。やっぱ卒業だから寂しいのかね…。」

「そうだと思うよ。喧嘩もしちゃったし余計にそう感じてるのかも。」

「やっぱりそうか〜。俺モテモテで困るわ〜。」


フワフワと嬉しそうに笑う。

楽しそうで本当に良かった。

複雑な気持ちというか…よく分からない関係性ではあるけどね。


「平村君が幸せならなりよりだよ。僕もそうやって笑ってる平村君が見れて良かったなぁ…。」


僕は幸せを分けて貰った気分になって心の底から笑った。

自分の事のように嬉しかったんだ。

手島君が二人の幸せを望んでいたように、平村君と吉沢君が今こうやって笑いあえている事が嬉しかった。


「それ本気で言ってんの?」

「え?」

「寂しいとか羨ましいとか妬ましいとかさ…普通嫉妬するだろ?何で普通に笑えてるわけ?」


平村君は信じられないというような目で僕を見てきた。


「羨ましいとは思うけど…だからと言って妬ましいなんて、」

「良いねぇ…心まで綺麗だと。苦しくないんだろうな。」

「…そんな事ないよ。」


平村君は怒ったような顔になった。

久しぶりに見る本気で怒った顔に少し怖くなった。


「金井君のそう言う所、俺嫌いだわ。」

「っ……、」

「昔の吉沢の気持ちが分かってきた。自分が惨めに思えんだよな…綺麗するぎる。」

「ごめんなさい…。何でそんなに怒ってるのかよく分かんない…。」

「良いよもう。昔の吉沢と同じような理由だし、金井君は悪くない…。別に何かした訳でもないし。…俺の気持ちの問題。」


平村君は机に突っ伏した。

よく分からないけど凄く葛藤してるみたいだった。

僕にキツい事を言いつつも、最後には平村君なりに気を使ってくれた事だけは分かった。


「ごめん。俺余裕なくて…。」

「良いよ…気にしないで?」

「怒ってくれた方が楽なのに。」

「喧嘩はしたくないから…。」

「……そうだな。ごめん。」


平村君は感情が豊かだと思う。

でも反対に僕は今まで友達も居なかったし、感情の出し方がよく分からなかった。

それが平村君を苛つかせてしまうのかもしれないけれど、どうしようもない事だった。

理由を理解せずに怒るだなんて難しい。




あきゅろす。
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