22
「言った。」
「言ったかな?あ、でも俺不器用だからさ、一緒に帰ろうを用事があるって言い間違えたかも?」
「……。」
こうやって天然と呼ばれたんだ、平村君は。
腹の内が見えないと怖い…。
何がしたいんだ。
「俺今ね、結構楽しいよー?」
「…そう。良かったね。」
「金井君は?」
「…普通。」
悪いとも言えないし良いとも言えない。
だから無難に答えた。
「寂しいなぁ、楽しいって答えて欲しいなぁ〜。」
いつも通り。
嘘の仮面を被った平村君が陽気に笑う。
僕に演技しても仕方がないじゃないか…なんて思う。
そんな時、フと小西君の言葉を思い出した。
胸のうちをみたいなら胸のうちを見せる…。
「僕、平村君の言う通り吉沢君が好きだよ。」
「………。」
ピタリと笑い声が止まって、嫌な空気が流れ出した。
「最初は見てるだけで良かった、今もそう。でも僕も煩悩まみれみたい。やっぱり話したいって思う。」
「俺の事怒らせたくてわざと言ってんの?」
「そうだよ。」
「……なにそれ、まさかMかよ。」
「怒ってる平村君は怖かった。でも今はそれほど怖くない。むしろ笑ってる平村君の方が怖いと思う。」
これは今感じた本心だった。
きっと今の平村君は素の状態だと思う。
本当の姿で隣に居て、本当の感情を見せてくれていると思う。
「そっか〜じゃあ笑ってるね〜。」
「…笑ってても怖くない。だってそれも本当の平村君だから。」
「……。」
「僕の事を怖がらせたいの?」
「別に。」
素っ気なく返される。
何がしたいのか自分でも分からないのかな?
何となくだけど。
「金井君も成長したねー。つまんないわ、」
「ごめんね。」
「でも俺ともっと仲良くしてくれるなら許す。」
「うん。」
「あと吉沢の話はもうしないで欲しい。名前も聞きたくない。」
やっぱりそうなるらしい。
それにしても…名前まで聞きたくないなんて、ついこの間まで仲が良かったのに。
「吉沢君が嫌いなの?」
「………。」
「どうして僕と関わるのが嫌なの?理由を言ってくれたら僕も出来るだけ協力する。だから教えて?」
これは僕の本心だった。
理由次第では協力したいと本気でそう思っていた。
「俺も、好きな人が居るんだ。」
それは余りにも小さくて切ない声だった。
聞いた僕でさえ胸が締め付けられるようなそんな声だった。
「でももう望みがない。いや…最初から俺に入る隙なんてなかったんだよ。でもせめて、その子を苦しませる事になってでも俺は……」
「……。」
「その子は別の人を好きなんだ。誰だと思う?でも恥ずかしくて、怖くて何も言えない。伝えたくても何も言えない。だけど伝わらなくて良いんだ…、側に居れるだけで俺は良い。」
僕はそれを聞いてある一つの仮説に辿り着いた。
今の話しが僕らに関係するとすれば、自惚れてる訳じゃないけど平村君は…。
僕はゆっくりと平村君の顔を見た。
自然と目があって立ち止まる。
「俺は…何も望まない。ただ側に居たいだけ。でも好きな人が別の人を見てるのは苦しい。本当は俺だけを見て欲しいのに。」
「…うん。」
「出会うのが遅かったのかな?それとも俺に魅力が足りないだけ?でも知られたくない。何もかも。知られて拒絶されたら怖い。だから何も望まない。俺は、その子が好きなんだ。」
苦しそうに言われて…僕はビックリした。
本当…だと思う。
これが嘘には思えない。
平村君は急いで顔を隠して背けると再び歩き出した。
「金井君、俺、我が儘だな…。」
「そうでもないよ。普通だと思う。」
「俺、格好悪いな…。」
「…いつもの、無理して笑ってる平村君よりは全然良いと思うよ。」
そう言うと、平村君は可笑しそうに…多分、本当の彼の姿で始めて笑ってくれた。
「俺の存在全否定じゃん。」
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