15枚目
(side:吉沢)
11月。
事件は突然起こった。
誰かにとっては些細な事でも俺にとっては大事件だった。
「平村!!!」
「んー?」
「…るせぇな。静かに入れよボケが。」
バンッと勢いのまま平村の部屋を訪れた俺は、一直線で平村に詰め寄った。
「お前画像消したか!」
「…え?」
カメラを突き出すと平村は不思議そうに頭を傾ける。
「金井と俺の写真消えてるじゃねぇか…!!昨日カメラ触ってたよな!」
「ぁ…、あーバレちゃったか…あー…ごめんね。」
何かを思い出したような顔をした後、申し訳なさそうな顔で謝られた。
ふざけんな。
バレちゃったじゃねぇよ。
よりにもよって俺と金井のツーショットを…。
「吉沢落ち着け。平村もわざとじゃねぇんだろーが。」
「…そのデジカメにタッチ機能がついてたの知らなくて…上にひょいってやって右にひょいってやったら勝手に消えた…本当にごめん。」
平村に深々と謝られるが…。
こいつ…抜けてる抜けてるとは思ってはいたが…!
「んと…天然だったら何でも許されると思うなよ。」
「ッ…、」
「吉沢。」
「分かってるって、わざとじゃねぇんだろ?でもよぉ、これはちょっと許せねぇわ。」
「吉沢、ごめんっ…、」
怒りが収まらない。
平村にカメラを預けた自分も悪いが、こればかりは許せねぇ。
こんな事なら現像するなりバックアップ取るなりしときゃ良かった。
もうあの写真は戻らない。
「ッ………、」
「ぁ…吉沢!」
もうあの写真は戻らない。
そう思った瞬間、自分の言葉が響いて胸が締め付けられた。
平村の呼び声を無視して部屋に戻る。
1人になった途端、我慢していた涙が溢れ出した。
もうあの写真は戻らない。
お前にとってはただの写真でも、俺にとっては大切な写真だったんだ。
無事に残ってる金井だけの写真を画面に写す。
俺はずっと金井を見てきた。
フィルター越しにしか見れないように、遠い場所から、沢山の思いで見てきた。
それは憧れであり、劣等感であり、恋だった。
好きで好きで…いつも無意識に追いかけてきた。
俺の学園生活の思い出の中では、いつも一番綺麗でいつまでも特別な場所に居た人だ。
そんな人と…高校最後の文化祭で隣に並べた。
同じ空間を共有出来た。
フィルター越しじゃない、俺と金井だけの空間。
その大切な思い出が…一生もんの宝物が消えてなくなった。
「…ぜってぇ許さねぇ…」
分かっていても収まらない。
涙をボロボロ流しながら、締め付けられる思いでここには居ない平村を睨みつけた。
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