07枚目

「そうだ、きたりんは数学得意だったよねー?ちょっと教えて欲しいのあんだけどー。」

「おー、いいぜ。」


僕が歴史の教科書を開けた瞬間、そんな会話が聞こえてきた。

二人は普通に勉強を始める。


「なるほど、流石きたりんですなー。」

「褒めても何も出ねぇよ。」

「嬉しい癖にー。」

「まぁまぁ。」


楽しそうに笑ってる。

フと気になって顔を上げると平村君と目が合った。

一瞬ギクリとして、また何かあるかもしれないと身構えた。



だけど…。





「ぁっ…、」

「どうした?」

「な、何でもない…今のとこもう一回教えて?」


平村君はビクッと肩を震わせ怯えるように視線を逸らすと北原君にすり寄った。




いまのなに?




本当に一瞬の出来事過ぎて理解出来ない。

今彼は僕に怯えた?

でも…僕は何もしていない。

むしろ怖かったのは僕の方で…。


グルグルと考えてしまい勉強が手に着かなくなった。


「金井どした?手止まって…分かんないとこでも?」

「ううん。大丈夫。」

「あ、腹減ったとか。」

「…そうだね。お腹空いてるかも。僕先に帰るね。」

「食堂は?」

「今日は自炊。」


嘘、本当は食堂に行くつもりだった。


「じゃあ俺も帰ろっかなー。」

「マジか、なら俺も帰るわ。」


こういう…誰かと時間を共有する事に幸せを感じていたのは確かだ。

だけど一人になりたい時まで着いてこられるのはかなり嫌かもしれない。

初めて味わう感覚だった。


「そう言えば北原君の好きなバンドのベストアルバムあそこの棚に入荷されてたよー。」

「マジか!ちょっと借りてくるから先帰ってて。また明日な。」

「また明日〜。」


ひらひらと手を振る平村君を視界に入れて、嫌な予感がした。

帰ろう。


「お腹空いたねー?」


歩き出すのが遅かった。

どっちにしろ追いつかれたと思うけど…早くも隣には平村君が居た。


「そうだね。」

「一緒にご飯どう?金井君の手作りご飯食べてみたいなぁ?」

「普通だよ。食堂の方が美味しいし。」

「またまた謙遜しちゃって〜。ただ俺が食べてみたいだけって言うかー。」

「そっか。」


余裕がないなりに相槌を打って…でもこんなんじゃ駄目だ。

もっと自然な感じにしないと。


「平村君は自炊するの?」




「あれ?俺に質問するなんて珍しい。てっきり俺とは話したくないのかと思ってた。」


返ってきた答えは求めたものとは違って、図星をつくものだった。

それをケロリと話すものだからゾッとする。


「そこそこ自炊もするよー。」

「…平村君は僕が嫌い?」

「どうして?」


平村君と同じようにいきなり聞いてみたけど質問返しをされた。

それはズルい。


「僕にだけ冷たいから。」

「そう?じゃあ交流の意味も含めて夕飯どう?俺の部屋でも良いけど。」

「…一人で食べたい気分なんだ。」

「なんなら吉沢も呼ぼうか。」

「…意味不明。」


こうなったら投げやりだった。

逃げ出す事も出来るけど、分からず苦しむくらいなら分かって苦しみたい。




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