20枚目
退場門を抜け、暫く歩いた所で平村君が立ち止まった。
周りがテントへ戻る中、僕らだけが自然とその場に留まって話を続ける。
「嘘とか要らないんだけど。俺に代わったの聞いた時すっげぇテンション下がった癖に。」
「っ…そんな事ないよ、」
そっか、顔に…出てたんだ。
誰だってそんな態度とられたら嫌な気分になるよね…。
「勘違いさせたならごめんね。僕…平村君が嫌だったとか、そんな事は絶対ないよ。ただ、吉沢君とはあんまり良い思い出ないし…これから仲良くなれたら良いなって考えてたから…。」
周りに聞こえないように気を使い、お互い小声で話す。
僕はなるべく事実を本心だけ隠して説明した。
言い訳がましいって思われるかな…。
「本当、だよ?」
「そ…分かったー。じゃあそう言う事にしとくね〜。」
「っ…、」
いつもと変わらない声と笑顔。
平村君はたった一瞬で僕の知る平村君に戻ってしまった。
─ なにこれ。
今まで見ていたのが幻のような…そんな変わりよう。
「平村君、大丈夫?」
「ん?大丈夫だよー?なんでなんで〜?」
「…なんとなく。」
平村君はアハハ…と楽しそうに笑った。
「平村君、もし僕の所為で嫌な思いしたならごめんね…。」」
「良いよ良いよ。嫌な思いとかしてないしー!じゃあテント戻るね?おつかれさま〜!」
「ぁっ…、」
平村君はニコリと微笑んで歩みを再開させた。
一人だけ取り残され、僕は感じた。
元に戻ったように見えただけ。
いつもの彼に戻ったのは表面的な部分だけで、僕の存在を拒むように歩くその後ろ姿に見えない心の壁を感じた。
「そっか…。」
こみ上げてくる涙を堪えて、僕も後を追う。
平村君が分からない。
聞いた所で何も答えてはくれないし、そもそも話すのさえ嫌なのかもしれない。
何も見えない平村君が怖くなった。
そして意味もなく人が怖くなった。
全員が…怖い。
平村君はテントに戻るとすぐに、吉沢君、手島君の二人に背後から抱き付いていた。
それを後ろから見届けて僕も席に座る。
周囲の人からお疲れ様と声が掛かった。
「あっつい!平村離れろ!」
「え〜、やだぁー。」
「チッ…お前が可愛い子ぶっても可愛くねぇんだよ、離れろアホが。」
後ろから騒がしい声が聞こえる。
今は何だか振り向くのが怖くて、次の競技を一心で見つめた。
「そう言えば俺と平村の身長同じだって聞いたか?」
「…うん。」
平村君。
その名前を聞いてピクリと身体が反応する。
駄目だ、嫌な感情が増してくる。
「金井…?大丈夫か?」
「うん…、」
「しんどそうだな…ま、走りっぱなしだと流石に疲れるか。」
「そうだね…ちょっとだけ、寝ます、」
「おう、お休み。」
僕は目を瞑って視界をシャットダウンした。
嫌な事は忘れたい。
あの時感じた平村君との間にある壁を早く忘れたい。
勘違いかもしれない。
まだ仲良くないから壁を感じるだけかもしれない。
そう思いたい。
だから…
忘れなきゃ。
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