19枚目

「足はどっちから出すの?」

「えっと…外側から、」

「了解。掛け声は?」

「僕らはイチニ、だったよ…。」

「そ。」


小さく、淡々と全体の流れを話す。

僕は何だか平村君の声に冷たい印象を受けて再び顔を盗み見た。

相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべている。

もしかしたら…他の人と同じように疲れているだけかもしれない。

まだまだグランドは暑いから。

でも本当に?疲れてるだけ?

押し寄せる不安の波は疑惑となって僕の心中を荒らしていく。


「なに。」

「ぁ…疲れてるのかなって。」

「別に。」

「…そっか、無理はしないでね。」


嫌な思い出がフラッシュバックした。


『アイツウザイ。』


突然やってきた悪夢のような出来事。

あの時、何故自分が嫌われたか分からなかった。

けどきっと…僕が悪いに違いない。



僕は人に不快感を与えてしまう、そんな存在なんだ…。



毎日ノホホンと笑っている平村君がまるで別人のように見えた。

笑ってる。

確かに笑ってるけど、心からの笑みじゃない。

とりあえず笑っとこうって、表面的に仮面をつけてるだけ。

そんな笑み。


「金井君。」

「ぁ…な、に…?」

「…いや、何じゃないって。俺らの番次だし。早く立ってよ。」


相変わらず微笑みは崩さずに小声で言われた。

笑顔とは対照的な刺々しい言葉が追い打ちをかけるように胸を突き刺す。


『 ひらむらクンは ボクのことがきらいなのかもしれない 』


急に怖くなった。

人から嫌われることが恐怖だった。


「ごめんね。」


機嫌を伺うように謝って…急いで立ち上がった。

平村君は何も答えてくれず、バトン代わりのタスキを肩にかけて走り出した。

その時の事はよく覚えていない。

夏の暑さも白熱する生徒の声も平村君の体温だって何一つ感じなかった。

ただただ早く終わって欲しい。

そんな思いでトラック半周を走った。

きっと夏の暑さで可笑しいに違いないのだから、この時間が早く終われば良い。

早くテントに帰りたい。

そうすれば平村君の機嫌だって治るはず…ー



たった半周がこんなに長く感じたのは初めての経験だった。





二人三脚の結果は二位で終わった。

大健闘の結果を喜ぶ余裕も余韻もなく、僕は解いた布を係の人に渡すと今か今かと退場のアナウンスを待った。


「金井君、ごめんね。」

「え…?」

「本当は吉沢が良かったでしょ。」

「っ…そんな事、ないよ、」


平村君の声色は先程よりも少しだけ柔らかさを取り戻していた。

それに内心ホッとしたのも束の間、図星を付かれて驚く。

退場のアナウンスがかかった。




あきゅろす。
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