17枚目
あっという間に午前が終わり、お昼休憩を挟んで午後のプログラムが始まった。
「ごっそり居なくなったな。」
「そうだね。」
現在、障害物リレーを目前にして僕の周りは見事なまでに空席となっていた。
隣には犀川君、目の前にはグッタリした小西君。
「小西寝てるな…。」
「寝てるね…。」
部活や予行練習で相当疲れているのか、小さい寝息が聞こえてくる。
他の生徒達からも疲れが見えていて、午前の勢いはどこへ行ったのかどこかグッタリとしている。
それは僕も同じで、グッタリしながら水分補給をしたりプログラムを開いたりと何となく暇を持て余していた。
「障害物、一年のクラス対抗、三年の200m、二人三脚…」
確認の為プログラムの順序を口に出す。
立て続けに走らないといけないハードスケジュールに少しだけ溜め息を吐いた。
でもまぁ、二人三脚は気軽にやろう。
『プログラム○番、障害物リレーです。』
「金井、凄いと思わないか。」
「思った。うちのクラスほんとに凄かった…。」
いや、本当に凄かった。
何といってもうちのクラス、運が勝負の障害物リレーで堂々の一位を取ってしまった。
吉沢君はジャンケンで一発勝利し、平村君は輪投げを一発で入れ…他の皆も見頃な強運で全てに置いて安定の一位を勝ち取っていた。
「やはり…やつらは持ってるな。」
「‥そうだね。」
なんだかオウム返しになってる気がする。
さっきから眠気の所為で上手く喋れない。
「ふぁ〜…、」
欠伸が出た。
「たっだいま〜!」
「ぁ…みんなお疲れ様。」
ムワッとした熱気を手土産に障害物のメンバーが帰ってきた。
瞬く間に埋まる周囲に嬉しいような暑いような…微妙な感想を抱きつつ労いの声をかけた。
「北原君もお疲れ様。」
「…ただいま。」
「…?」
ヤケに疲れた顔で隣に座った北原君急いで水を渡す。
北原君はそれを一気に飲んだ。
それでも故か尚、微妙な表情を浮かべているのが不思議で僕は声をかけた。
「北原君、大丈夫?」
「…やられたかも。」
「夏の暑さに?」
「違う、足挫いたっぽい。」
それは絶望的な答えだった。
「…え!二人三脚無理そう?」
「ゴメン、無理かも。」
申し訳なさそうに謝る北原君の声に焦っていると、横から声がかかった。
「北原大丈夫か?無理なら代役を立てた方が良い。良ければ俺がやるが、」
「犀川君…でも、」
僕は思わず迷ってしまった。
声には出さないけど、犀川君は以前50m18秒の鈍足だと言っていた。
走るのは嫌いだと堂々と宣言していたのを知っているだけに頼むのは躊躇してしまう。
他に誰か居ないかな…。
「200メートルの選手は入場門に集まって下さい!」
「あ…」
テントの外から聞こえてくる号令に思わず焦る。
もう行かないといけない。
「俺がやろうか、犀川鈍足なんだろ?」
どうしようかと迷っていると今度は後ろからの声。
バッと素早く振り向けば吉沢君がこちらを見つめていた。
「そうだな、正直俺では足手まといになる。吉沢を代役にした方が適任だろう。」
「わ、かった…吉沢君宜しくね。僕、次のやつ出るからまた後で・・」
「・・おう、頑張れよ!」
うわぁぁあ!!!
吉沢君と二人三脚する事になった!
僕は集合場所まで歩きながら顔を手で覆った。
足を釣った北原君には申し訳ないけど、こんな事ってない。
高校最後の年で吉沢君と走れるんだ。
しかも吉沢君がまた進んで声をかけてくれた、本当に嬉しい。
「…よし、頑張ろう。」
小さくガッツポーズ。
頑張れって応援してもらったし、これが終われば二人三脚。
僕は無駄に気合いを入れて200mリレーに望んだ。
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