16枚目
ビックリした…。
「お疲れ」なんてたった一言だったけど本当にビックリ。
心臓が飛び跳ねて、今もドキドキしていた。
労いの言葉は沢山貰ったけど、吉沢君が相手だとどうしても体が先に反応する。
それ程吉沢君という存在は特別みたいだ。
「金井、お茶。」
「ありがと。」
どことなく震えている手で犀川君からお茶を受け取った。
…バレてないよね?
「ふぅ、」
お茶を飲んで小さく息を吐く。
まだ少し心拍数は高いけど、落ち着いたら今度はニヤケてきた。
だって吉沢君が金井って、お疲れって。
どうしよう…嬉しい。
僕はバレないように密かに微笑んだ。
「あ、吉沢。ちゃんと写真撮ったか?」
お茶を飲みながら達成感に浸っていると、犀川君が思い出したように言った。
「…ぁ、あぁ!!!忘れてた!」
「オイふざけんな!俺らの勇姿をカメラにおさめてないとか何してたんだよ!」
「まぁまぁコニタン、落ち着いてー。」
吉沢君の声にいち早く反応したのは今朝同様、小西君だった。
…実は仲が悪かったりして。
「ゴメン。次からちゃんと撮る。」
吉沢君は鞄からデジカメを取り出した。
卒業アルバム委員である吉沢君は、普段からカメラを持ってきている。
仕事内容として、主にクラスの写真撮影と画像の整理、編集をするみたいで、旗の制作中も写真撮影をしていた。
「よし!一位取った記念に金井と撮る!」
「え!?」
立ち上がった小西君がパッと笑って真横にきた。
「さぁ撮れ吉沢!そしてアルバムに載せろ!」
小西君に後ろを向かされ、肩を抱かれる。
吉沢君はデジカメを手に持って固まっていた。
「金井が入るなら俺も。」
「ぇ…北原君も・・?」
「じゃあじゃあ俺も入るし〜!」
「ふむ、俺も参加するか。」
北原君を筆頭に、平村君、犀川君も寄ってきた。
暑い、これは暑い。
「吉沢さっさと撮れよ。この集団見てて暑苦しいわ。」
「手島入らないの〜?手島も入ろーよー。」
「……吉沢、宜しくな。」
「……。」
手島君まで吸収してしまった。
暑い、凄く暑い。
ようやく吉沢君が動き出して少し下がった場所でカメラを構えた。
パシャッ。
カメラ特有の音が聞こえる。
「えー、いきなりすぎ!掛け声してよー!」
「…はい。…ちーず。」
パシャッ。
再びカメラの音が響く。
吉沢君はどこか不満そうだ。
もしかしたら吉沢君も入りたかったのかもしれない。
「吉沢さんきゅ〜。金井と平村と撮れるとか幸せだわ〜。」
「とりあえずお前は金井から離れろ。」
「え〜!北原の鬼!」
「鬼じゃない。」
北原君のお陰で密着の暑さから開放されたのはさて置き、吉沢君の反応がやっぱり気になる。
「金井、どうした?」
「…いや、吉沢君、写真に入りたかったのかなって、」
「あぁ。…吉沢、カメラ貸して。」
「…?別に良いけど…、」
え?と驚く間もなく、北原君がカメラを受け取った。
そして吉沢君にカメラを向け、パシャッと一枚。
「え?何?」
「お前ばっかり撮ってても意味ねぇだろ。金井が心配してるから、ほら、」
「えーじゃあ俺も入る〜!スリーショットよろしよろしー!」
平村君が少し強引に両側の二人を引き寄せた。
そしてパシャリ。
絵になるなぁ。
「はい、カメラ。」
「あ、おう…。」
「…吉沢、どうした?」
「いや…、」
返されたカメラを手に、吉沢君がフリーズしてしまった。
どうしたんだろ?
僕は疑問に思って吉沢君を見つめた。
すると視線が上がり、自然と目があう。
「金井、心配してくれてありがとな。」
「っ…う、うん。」
ちょっとビックリして、でも嬉しくて…
実際に行動を起こしたのは北原君だけど、そう言ってくれたのが素直に嬉しかった。
「金井君優しいねー。」
「いや、そんな事ないよ、」
「またまたぁ、謙遜好きだねー。」
ニコニコ、平村君が笑う。
僕は「そんなんのじゃないよ」と笑い返して前を向いた。
こんな時、僕はどうして良いのか分からなくなる。
平村君に対して何て返せば良いのか分からない時があるのだ。
それは僕のコミュニケーション能力のなさが一番の原因で、平村君に全く非はないけど…
誤魔化すように笑う事しか出来ない自分が少し嫌だった。
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