15枚目

「吉沢!勝ったよ!!!ヤバいヤバい!ちょーヤバい!」

「痛い痛い!だから分かってるって!!」


平村が嬉しそうに叩いてくる。

周りが見えてないのか。

クラスメートは皆立ち上がり、気が付けば手島も立っていた。

いや、今の試合はマジ凄かった。

何だよ金井、アイツ足速すぎだろ。


「はー、金井君足速かったんだねー。」

「そうだよな!俺テンション上がったわ!」


振り向いた北原の目が無駄に生き生きしている。

確かに今のはテンション上がったわ。





「お、金井!お疲れさまー!凄かったな!」

「北原君ただいま。勝って良かったよー。」


振り向くと汗を垂らした金井が居た。

噂をすれば何とやら。

その声にクラスメートの視線が金井に向けられた。

体操服の袖を肩まで捲り、前髪をピンで留めた金井は普段見る事のない新鮮な姿で…

貴重なこの光景には目を奪われてしまう。

きっと世に出ても抜群で綺麗だろう金井は本当によく目立っていた。

隣のテントからも視線を貰い、しかし当の本人は気が付いていないという不思議。

無自覚というのは本当に怖い。


「金井君お疲れ〜!足早いね、ビックリした!」

「平村君、ありがと。」


平村にニコッと笑うその余裕の表情に感動さえ覚える。

それは他の生徒も同じようで、各自金井に労いの声を掛け始めた。

勿論リレーで頑張ったのは金井だけではないが、いかにも運動出来なさそうな金井が急に出てきた反動は凄まじく、100mを走ったメンバーさえも金井に視線を送る始末だった。

それほど金井の存在感は大きいという話。


「金井。席借りてたぞ。」

「あ、良いよ座ってて。適当に座るから。」


立ち上がる犀川を制し、金井は空いていた北原の隣へ座った。


「金井。」

「ぇ…、」

「…お疲れ。」

「…ありがと。」


今しかないと思い、俺は思い切って声をかけた。

すると控え目に笑い返してくれて…一瞬目も合った。

急に心拍数が上がってきたのを誤魔化すように手足を組む。

緩みそうな口元を無理矢理引き締めた。





─ うるせぇぞ心臓。


自分の心に言い聞かせる。

それでも心音はおさまらなかった。






「金井、お茶。」

「ありがと。」


犀川が金井にお茶を渡すのをこっそり視界に入れる。

こんな小さなやり取りが幸せで、誰にもバレないように小さな幸せを噛み締めた。




あきゅろす。
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