10枚目
(side:吉沢)

やってしまった。

その言葉が適切だろう。

やったのは北原だが俺まで余計な事をやってしまった。

憎い、数分前の俺が憎い。




つい先程、犀川が相談と称して披露した脅迫状もどき。

その中でも一際目立つ『これは預かった』と矢印で指された猫とも犬とも付かない…そもそも動物なのかも怪しい絵。

前置きが長かった割に手紙の内容は薄っぺらく、画力も乏しかった。

まさかとは思うがわざとヘタクソに書いたのだろう、これが本気だとは思いたくない。

そう思っていつも通りに何も考えず発言していた。


「幼稚園児でももうちょっとマシに描くぞ。もはや宇宙人にしか見えねぇ。」


暗に幼稚園児以下だと言ったのだ、北原に。

“北原に”

ここが一番重要だ。

だが肝心の北原は暫しの無言。

そして何故なのか金井に全力で謝り始めた。



ここで少し嫌な予感。



金井が立ち上がって近付いてきた。

普段は自ら近付く所か目さえ合わせようとしないあの金井がだ。

消える所か増していく嫌な予感を胸に抱えながら、俺は例の手紙を金井に渡した。

金井はそれを受け取ると俺と平村の間で正座をしてそっと開いた。

皆で金井の行動を見守る。

そして…ー





金井が身体を丸めた。


「金井くん!?」

「黒歴史です、これ、これ、僕にも羞恥心というものがっ…」


どうやら俺は‥またやってしまったらしい。


「金井、マジゴメン。頭を上げてくれ。」

「ヒドい、これ、自覚はあるのに…。」


今の光景が凄い。

土下座のように身体を折り曲げる金井。

その横で土下座で謝る北原。

凄い。


「僕自覚あるんだよ、幼稚園児以下だって自覚、あるのに、」

「っ…!」


うぉぉお!

俺だ、俺はまたやらかした!

この絵の作者が金井だと知っていたならば、俺はここまでボロクソには言ってなかった。

だが馬鹿な俺は何度も真の作者の目の前で幼稚園児レベルだ宇宙人だと馬鹿にして…。

俺は北原がわざと下手に描いたのだろうと憶測を立てて、また想像レベルで話をしてしまった。

この状況を見れば流石に分かる。

金井は本気だったに違いない。

猫か犬か熊かリスか何を描きたかったのか定かではないが、金井がこれを真剣に描いた事は間違いなかった。

自覚はある…という発言から、落ち込んだり恥ずかしがる姿を脳内で想像してみた。

するとどうだろう。

不思議な事にこの絵が愛しく思えてくるではないか。

なのに俺は…ー




俺を馬鹿だと言った手島を今なら良く理解出来る。

声を大にして言おう。

俺は馬鹿だ。




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