09枚目

「北原君。」

「……。」

「北原君?」

「先に謝る、ゴメン。」


え?

何故なのか急に謝られてしまった。

その表情はどこか冴えなくて顔色も悪い気がする。

目を合わせてくれないし、心配になってきた。


「犀川。」

「ん?」

「それ俺だわ、」

「……なんだ?」

「そのヘンテコリンな怪奇文送ったの俺。すっかり忘れてた、マジすいません。」

「…ほぅ、」


北原君はその場で静かに音も立てず土下座した。

僕はその時、旗制作に任命された日の放課後を思い出した。


『犀川の机に呪いの紙でも入れておくか』







「えぇ!?本当に出しちゃったの!」

「なるほど。つまりこれは北原からの嫌がらせなのか。」

「犀川殿…。親愛なる犀川殿に間違いはありません。魔が差したなんて言い訳にしか聞こえないのも充分理解しております。本当に申し訳ございませんでした。」


北原君は丁寧に…無駄のない柔らかい声で言った。

全力で許しを乞う姿を見て可哀相だけど自業自得という言葉が頭に浮かんだ。

まさか本当に嫌がらせの手紙を送るなんてね‥

いつも北原君には助けて貰ってるけど今回の件は流石に庇いきれない。

ごめん、北原君。


「ほう…送られた日付からして、帰宅部を理由にこれを押し付けたのが原因か。」


これ、と言って、作業を中断している旗を指差した。

凄い、当たってる。


「スイマセン。脅迫のつもりじゃないっす。」

「しょうがない。まぁ推理小説の一辺を体験したようでそこそこ楽しかった。ただ今日までの考察が無意味に終わったのは幾分残念だがな。」

「犀川殿!心の広いお方…!」


北原君がパッと顔を上げて笑った。

それを見た僕もホッと胸を撫で下ろし、器の大きい犀川君に尊敬の眼差しを送った。

流石、我らが委員長。


「なんだキタリンか〜、犯人は案外近くに居るもんだねー。」

「はぁ…北原お前まで馬鹿になったか。良いか、もうこんな馬鹿馬鹿しい真似はすんな。これ以上馬鹿はいらねぇ。なぁ馬鹿代表の平村。」

「えーそれ俺に聞く?てーか馬鹿馬鹿ウルサいし。…にしてもあっさり解決したからつまんなかったな〜。」


不満げに文句を垂れる平村君は、犯人探しをもう少し堪能したかったらしい。

一方の手島君は溜め息一つに釘を刺すような事を言った。

その馬鹿の中に僕が含まれていない事を祈ろう。

密かにそんな事を思っていると、未だに手紙を手に持っていた吉沢君が口を開いた。


「北原って絵下手だったんだな。」

「あ、それは、」

「幼稚園児でももうちょっとマシに描くぞ。もはや宇宙人にしか見えねぇ。」

「……。」


北原君ってそんなに下手だったかな?

吉沢君の言葉にハテナを浮かべる。

単発的なカットイラストは見れる程度に描けていた気がしたけど…違ったかな?





「金井スマン!!!」

「っ!?」


北原君が僕に手を合わせて謝ってきた。

一瞬驚いて、次の瞬間嫌な予感を覚える。


『何これ、猫?あれ、うさぎ?』

『いや、生憎俺は動物を飼っていない。』


僕は立ち上がった。

旗を挟んだ反対側に居る吉沢君の方へ向かう。

何となく察したのか、吉沢君が例の脅迫状紛いな怪奇文を渡してくれた。

僕はその場に正座すると渡された紙をすぐさま開いた。


「……。」


誰も何も言わなかった。

僕は正座したまま上半身を前へ倒して…



うなだれた。



「金井くん!?」

「黒歴史です、これ、これ、僕にも羞恥心というものがっ…」


何故、何故、何故、僕の絵がここに…!




あきゅろす。
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