07枚目
「相談がある。」
そう切り出したのは犀川君だった。
ラストスパートと追い込みをかける中、どことなく陰のある顔で話し出した。
「俺は狙われているかもしれん。」
「まさか…コレか。」
小指を立てた吉沢君の頭を手島君が叩いた。
小指…女?
え…もし正解だったらどうするの?
「いって!何しやがる!」
「今の言い方のどこが浮ついてた、察しろ。」
真面目な手島君だ、最もな事を言う。
いつも一人でクラスをまとめている犀川君がわざわざ相談だと前置きしただけあって、吉沢君が茶化したのを癪に思ったようだ。
そのやり取りの影響か「考えるな感じろ」と北原君が小さく呟いた。
謎ではあったけど何だかそれが名言っぽく聞こえて僕はこっそり笑った。
「てじーきびしー。夢がないなぁ、」
「…悪かったな。俺は根っからの現実主義者なんだ。」
「てじー…。」
珍しく平村君が遠い目をした。
「話が逸れたな。それで犀川は何に狙われいるんだ。」
「これを見てくれ。」
犀川君はズボンのポケットから折り畳んだ紙を取り出した。
「脅迫状だ。」
─ え?
恐らくその場に居た全員の心の声が揃っただろう。
脅迫状、日常ではなかなか聞かないワードだ。
犀川君はどうやら脅迫されているらしい。
「読んでくれ、謎の解明をしたい。幸いにもこの場に居る者は頭が良いだろう?…若干一名を除き。」
周りを見渡す。
確かに皆、頭が良い。
手島君は学年トップだし、吉沢君も勉強が出来る。
平村君も学力は自信があると言っていた。
犀川君なんかはよく先生の書き間違いを誰よりも早く指摘しているので、彼も学力があるに違いない。
北原君だって平均的ではあるけど理系は得意みたいで、いつも満点近くを取っていた。
では若干一名とは誰なのか…嫌な考えが浮かび不安をかき消すように周りをキョロキョロ見た。
そこで気が付く。
皆の視線がある一点に集中しているではないか。
後は反射的なもので僕も同じように視線をそちらへ向けた。
「…え?え?俺か!?」
皆の視線の先…それは意外にも吉沢君だった。
……何で?
「いやいやいや、ここは普通に平村だろ。」
「吉沢ひどーい。俺ちょー頭良いしぃ〜。」
「…犀川訂正しろ、若干二名の間違いだ。どう見ても団栗の背比べだろ?平村はアホ、吉沢は単純。」
「オイ、お前ずっとそんな風に見てたのか?なぁ!」
「なるほど。類は友を呼ぶとは言うが…ふむ、」
「ふむじゃねぇ!納得すんな!」
あぁ、何時ものおふざけか。
僕は深く考えるのを辞めて傍観に徹した。
こうなれば仲間に入れない。
「第一類友ならお前ら全員アホで単純だからな!お前らはアホだ!分かったか!」
少し勝ち誇ったような顔で吉沢君が宣言した。
ムキになる吉沢君を見れたのは何だか特をした気分。
その表情が余りにも嬉しそうで新たな一面にキュンとしてしまった。
「なるほど。実を言えばさっきの若干一名は謙遜して自分を指していたのだが…確かに単純に適する人物がここに居たな。心理戦に弱そうだ。」
「吉沢、墓穴を掘ったな。」
「お前ら……シネ。」
ニヤリと笑った手島君に旗が上がった。
僕が思っていたより一番の主導権を握っているのは手島君らしい。
吉沢君は単純、頭の中にそんな小さな情報を更新した。
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