03枚目

「芸術的センスに圧巻だわ。」

「同意。投票する必要もないね。」


翌日。

休み時間を割いてもらって応援旗のデザイン案を募り、放課後に回収した。

今は文化祭についての話し合いが行われている真っ只中で、僕達だけは特別に回収したばかりの紙を確認していた。

だけど正直、どの紙に書かれた案も僕と大差のないものばかりだった。

流石男子校といった所か…ほとんどが適当に描かれた落書きで、真剣な案が少ない。

勿論、美術部員の人も真剣に描いてくれたけど…かなり個性が強くて素人の僕等が描くには難易度の高いものだった。

本当…あんなものを描ける人がこのクラスに居るなんて未だに信じられない。

ここだけの話こっそりファイルにしまったのは北原君にも内緒。




そんな状況の中、一際目を惹くデザインがあった。

ピストルをモチーフにしたシンプルで格好いいデザイン。

これなら描けそうだし運が良ければ応援旗審査の勝利も夢じゃないと瞬時に思った。


「満場一致、決定な。」

「2人だけどね。」


僕らは手に取るように笑いあった。


「あ、でもこれ名前なくね?誰が描いたんだ?」

「え〜?…あ、手島君だ!」

「マジで!?」


紙を裏返したら手島君の名前があった。

凄い…こんな隠れた才能があったなんて…。


「うぉお…アイツすげぇ…流石学年トップは違うな。」

「え!嘘!」

「マジマジ、これ小西情報な。実は金髪なんて奇抜にしてるのって、悔い残したくないのが理由なんだってさ。卒業したら黒で生きるって。」

「へぇ〜、若いうちにってことかぁ、」

「そうそう。」

「…あれ?でも受験とか大丈夫なのかな?」

「あ〜、それまでには流石に染めるだろ。手島、大学は名門校受けるらしいし。」


駄目だ…レベルの高い学校に手島君が…。

どう考えても結び付かない。


「口は悪いけど根が真面目だからな…ホントすげぇわ。」


手島君…。

僕は感動の余り声を失った。

顔も良い、頭も良い、絵も上手い、ちょっと不良、なのに真面目。

凄すぎるよ手島君。

ここ最近で手島君の評価が鰻登りだ。

凄い、凄すぎて最早凄いしか出てこない。


「話逸れたけど…ホームルーム終わったら速攻手島確保な。」

「オッケー。」


そうこう話しているうちにも文化祭の話が進められていた。

どうやら第一候補がかき氷で、第二候補がタピオカジュース、第三候補が綿菓子らしい。

黒板に並べられた候補は火を使わなくてもいいものばかりで、皆考えている事は同じだった。

確か去年のクラスでもかき氷が第一候補で、最終的には他のクラスと被った所為で第二候補のフランクフルトになってしまった。

恐らく奇跡でも起こらない限り今年も第二、第三候補が有力かもしれない。

こればかりは犀川君のくじ運にかかってるね。


「なんかこんな話してると腹減ってくるな。」

「確かにお腹空いた…手島君捕まえたら食堂で話そうよ。」

「そうだな。食いながらでも話せるし。」


今日は体育祭の練習もあってだいぶ体力を使った。

ちなみに…僕は北原君との二人三脚以外に、100mと200mのリレーにも出ることとなった。

実を言うと昔から足の速さと握力だけは無駄に成績が良くて、陸上部に勧誘された事もある。

そしてどこからかその情報を手に入れたらしい、体育委員の二人に捕まってしまった。


『こんな戦力を使わない訳にはいかない。』

『俺達の為に200メートル走ってくれ!』


しかも頼まれたのは戦力的に言うと二番手の位置だった。

話に寄れば、僕がクラスの中で二番目に速いらしい。

うちのクラスは五割文化部、三割運動部、二割帰宅部で足の速い人が割と少ない。

幸いまだメンバー表も未提出だったので、組み込むのは容易いものだった。

引き受けたからには負けられない試合だ。




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