02枚目
僕達は自分の教室に入った。
今は放課後だからか当然誰も居ない。
「やっぱ残ってないか、薄情な奴らだぜ。」
「皆頑張ってるんだよ。部活の引退も間近だし。」
「そうかねー。探せば暇人居るけどな‥犀川の机に呪いの紙でも入れておくか。」
相当根に持ってるらしい。
犀川君の机を見てニヤリと笑う北原君。
笑顔満点、怖さも満点。
「犀川君については忘れようよ。とりあえずデザイン考えなきゃ。」
「デザインなぁ‥。"頑張れ3年3組!"とか…無難ではあるけど、」
「そうだねぇ…ちょっと無難過ぎるかなぁ。一応これもポイントになるし、どうせならクラスに貢献できそうなものが良いかも。」
「んーじゃあ、美術部にデザインだけ依頼するか。」
「流石にそれは…」
僕はウーンと渋った。
記憶を辿り先程の事を思い出す。
実は応援旗の布を貰った時、口答で幾つかの条件を言い渡されたのだ。
一つ、美術部に制作を依頼しない事。
二つ、美術室の道具を使用・盗難しない事。
特にその事項は厳しく伝えられて、過去に起こっただろう問題を垣間見てしまった。
先生曰わくこの時期は特に美術関連の管理が厳しいみたいで、美術室の中を覗くだけで睨まれるらしい。
だからよっぽどの事がない限り近付かないのが懸命だと助言された。
警官心が強すぎる…とは思ったものの、体育祭は三週間後で文化祭は更にその二週間後。
大きい行事が立て続けにあるだけに文化部も今の時期は準備に追われて忙しそうだ。
それに僕達三年生にとってはラストイヤーだし、それこそクラスや盗難事件に時間を潰されては溜まったものじゃないだろう。
「美術部は最終手段でとりあえず考えようよ。」
「そうだな。」
こんな条件では軽々しく美術部員に頼れないし、だからこそ適当にもしたくなかった。
ベストを尽くそう。
僕は鞄からルーズリーフ二枚出して、一枚は北原君に渡した。
「金井。」
「…何?」
「君の芸術的才能には圧巻だわ。」
「…それ褒めてる?」
「逆。」
「分かってました。」
僕は視線を落とす。
ルーズリーフに描いた僕の絵は芸術的才能なんて皆無な代物だった。
彼はきっと、こう言いたかったに違いない。
『芸術的才能の無さに圧巻だわ』
そこら辺を濁してくれたのは有り難い。
優しさが心に染みる。
だけど正直…言われなくても分かってる。
僕は絶望的に絵が描けない。
「いや、でもこのネコよく描けてるって。」
「………犬だよ。」
「金井は犬派なんだ、俺猫派。」
「……、」
「…ごめん。」
この通り。
フォローのしようがない有り様です。
これじゃ先が思いやられる。
絶望的だ。
「絶望的な戦力が実権を握ってしまった…」
「か、金井、金井は頭脳担当だから。それにほら、色塗りとか買い出しとか…そうそう!画材買いに行かないとダメだろ?お金の管理は金井に任せた。デザインは俺が頑張るからさ。」
「北原君…。」
改めて優しさが心に染みるよ。
かなり不甲斐なさはあるけど、ちゃんと役割分担してくれるなんて…。
僕は北原君から封筒を預かった。
封筒には『3−3 一万円』と書かれてある。
これを使って体育祭と文化祭に向けて準備をするらしい。
責任重大だね。
「一応犀川ともこの話しないとな。お金の使い道間違ったら自腹になるし…。」
「それはやだね…あ、そう言えば文化祭は何するんだろ?」
「ん?確か明日のホームルームで決めるって……聞いてなかったのか?」
「…アハハ、まぁそういう事もあるよねー。」
呆れ顔をされた。
確かホームルームの時間は…
自分が旗の制作に任命されるとは思ってなくて、まさかの事態についつい後半も話を聞き流していた…らしい。
「あ、そうだ!明日のホームルームでクラスの皆にデザイン案募ってみるのはどうかな?それで良いやつだけ選出して投票するとか!」
「なーる!それいいな!人数分の紙用意するだけで良いし、素人の俺らにはちょっと荷が重かった。」
こうして本日はお開きとなった。
僕らはニンマリ無駄に良い顔で笑って机の上を片付け始める。
今まで生きてきた短い人生の中で、イベントなんて面倒くさいものでしかなかったのに…
一度は絶望した学校というこの環境で、僕は楽しいと感じ始めていた。
こんな感情を今になって知るなんて…少しだけ後悔して、沢山の期待が湧いてくる。
「明日が楽しみだね。」
僕はそう言って笑った。
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