01枚目

今思えば…あの日の出来事は僕にとっての分岐点となった。

イジメという暗い過去から解放された瞬間でもあったし、何より新たな自分への一歩へ繋がった。


過去は変えられない。


だからこそ乗り越えなければならない。

僕はずっと、どこか過去を引きずっていて、いつもどこかで後悔していた。

だけどその中心部分である吉沢君と向き合った事で、僕は少しばかり自信を手に入れたと思う。

一番の変化は以前より素直な気持ちで笑えるようになったこと。

僕と吉沢君の関係は良好だ。

相変わらず騒がしい吉沢君のグループに進んで入る事はないけれど…

小西君が先頭をきって誘ってくれるお陰で、あのメンバーの中に入る機会が増えた。

その変化が嬉しくて、怖くて、楽しい。


「夢みたい…」

「何が?」

「…ううん、何でもない。独り言。」


僕は北原君に笑いかけた。

思っていた事がつい声に出てしまったらしい。

すると北原君が「大きい独り言だな。」と笑った。







「にしても急だろー。応援旗なんて美術部にやらせとけよ。めんどくさいわほんっと。」

「北原君‥それは‥」

「あ゙ー!分かってるって!でも可笑しいだろ!?帰宅部って理由だけで俺らに押し付けるかよ!マジ犀川ムカつくわ、明日殴る、」


思い出したように怒りだした北原君が、こうも怒り心頭になっているのには訳があった。

その理由は正に今、僕の手の内にある白い布だ…




もうすぐ学校行事、体育祭がある。

そこで毎年定番となっているのが各クラスの応援旗制作。

僕が手元に持っているそれは何層にも折り畳んである白い布で…。

それを使って本番までにオリジナルの応援旗を作らなきゃいけなかった。

北原君がずっと怒っているのは、割と大きいサイズのそれを帰宅部という理由だけで任されてしまったからだ。


「犀川君も準備で忙しそうだし‥」

「でも俺ら以外にも暇な奴いるだろ!絶対居る!」

「…うーん、じゃあ明日辺りに声掛けよっか?」


凄い勢いで力説してくる北原君を宥めるように言った。

すると何故だろう…

珍しいものでも見たような顔を向けられた。


「北原君?」

「いや、金井からそんな台詞が出てくるなんてビックリした…。ちょっと前ならクラスの奴らと必要以上に関わらなかったのにな。」

「…大袈裟だよ。」


子供の成長を見るような生暖かい目を向けられて少し居心地が悪くなる。

恥ずかしいと言うか嬉しくいと言うか…むず痒い、変な感じ。


「しかし、成長期なのは分かるがあの犀川に関わったのは罪深いぞ金井。」

「スイマセン…、」

「まぁ全面的に悪いのは犀川だけどな。」


ちなみに犀川君はうちのクラス委員長だ。

競技決めと平行して応援旗の制作者を決める時に「帰宅部に任せよう」と提案した張本人だった。

あの時、ウッカリと僕が目を合わせてしまったのがいけなかった。

北原君と二人三脚に出る事が決まって、もうすることはないとボンヤリ犀川君を見つめていたのが仇となったのだ。

気が付いたら応援旗係りに任命されていて、必然的に同じ帰宅部の北原君も巻き沿いになっていた。


「北原君ごめんね、僕の所為で巻き込んで…もう僕の事は見捨ててくれても良いよ。1人で頑張るから。」

「おいおい相変わらずマイナス思考だなぁ、金井の所為じゃねぇよ。それに結局は誰かがやんなきゃいけねぇ訳だし。」


うっ…優しい…北原君が女神に見える…。

北原君も居るし、こうなったら最後まで頑張ろう。

僕は隠れて拳を作った。

気合いだ、気合い。




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