22枚目

「マジかよ…」

「はぁ……マジか。それ俺らの台詞だって。」

「天然…金井君、天然だ、」

「ここまで天然だとスゲェ…」

「だから言ったろ。金井は人を馬鹿にするような奴じゃないって。」


それぞれが呆れたように言い出す。

…え?

なんか、的外れなこと言った?


「え?え?」

「吉沢、これ見てもまだ分かんないか。」

「いや…俺が根本的に間違ってた…、金井、俺の方がごめんな。俺、金井のこと嫌いじゃねぇよ。」

「っ…ほ、本当に‥?僕も、僕も吉沢君のこと嫌いじゃない!」



よく分からないけど、吉沢君の言葉に涙腺が緩くなった。

だって、吉沢君に嫌われてなかったなんて…本当なら嬉しい。

こんな夢みたいなことなんてない。



なんだか胸がいっぱいになって僕は唇を噛んだ。


目が少し潤んでくる。



「ちょ、金井君大丈夫!?」

「うん、ごめんね、なんか嬉しくて…」

「うわぁあ!なんだ女神かよ!とりあえず抱き締めて良いか!?オッケー!」

「良くねぇアホが。自分で許可出すな。」


頭を叩かれる小西君。

僕と同じ涙目で「ハゲる…」と恨めしげに呟いた。

哀れ、小西君。


「過去の自分を殴れるものなら殴りたい。」

「そ、そんな物騒なこと言わないで、もう平気だから…、」


どこか絶望的な顔で言う吉沢君に、僕は言った。

確かに中学後半の数ヶ月間、僕は苛められられていた。

その時のクラスメートや吉沢君に今でも恐怖心は残っているけど…

それと同じだけ"もう一度仲良くなりたい"という願望があるのも確かだった。

元々人付き合いが苦手な僕だったけど、たまに見る夢に仲の良かった友達や吉沢君が出てくることがあって。

それは心の奥底…深層心理では"やり直し"を願っていることを表していた。

僕は身を持ってその事実を分かっている。

だから、もしも願いが叶うなら…





「やり直せるなら、やり直したい…。駄目、かな、」


吉沢君の目を見つめる。

恐怖と期待、両方を胸に勇気を振り絞った。

ここまできたら、今言わないと後悔するって思った。

告白なんて大それた事は出来ないけれど、これくらいの事なら僕にも言える。


「嫌じゃねぇの、俺…金井を傷つけるような事いっぱい言ったのに…」

「もう終わった事だよ。それに、夢に見るくらい皆ともう一度やり直したいって思ってた。」

「っ…ゴメン、俺が壊したんだよな。」

「……だからね、謝るならもう一回仲良くして欲しいかなぁ…なんて…、」


一か八か、という心持ち。

でも何故か、さっきよりも吉沢君と対峙することが怖くなかった。

それは北原君だったり小西君だったり…

僕を想ってくれる心強い友達のお陰でもあるし。

吉沢君と向き合って話している今の状況が、何より望んでいたことでもあるし。

とにかく、僕は精神的に強くなっているような気にさえなって、今になって少し自信が付いた。








「金井が望むなら、俺で良ければ…。」


ほんの少しの勇気で変われるのだと、僕はこの時、生まれて初めて知った。




あきゅろす。
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