17枚目

あれから自室に戻り床に這いつくばっていた。

文字通り、床にベッタリと。



僕らの通う学校は寮生で、一人一部屋の個室が割り当てられている。

だから当然、1人になる為には自分の部屋が最適だった。


「もう学校、行きたくない…、」


本来ならベッドで寝てしまいたいけど、もう何かをする気力なんてない。

お風呂に入るのも億劫で、だから僕はこうして床に這いつくばっているのだ。


『金井ー!居るかー!』


扉からドンドン音がした後、北原君の声が聞こえた。


「……ぅーん、」


僕はやる気のない弱った声で返事をした。

多分…北原君には届いてないだろうけど。


─ ガチャッ


「うわッ!び、ビビった!居るなら返事しろよ!てか不用心だから鍵かけろ!そんで床で寝るな!ベッド行け!」


扉が開いたと思ったら、床に這いつくばる僕に驚いたらしい、北原君に怒られた。

ごめんね、北原君。


「…お風呂まだだから、」

「…じゃあ、先にお風呂に入りなさいよ。」

「……めんどう、」


僕は再び床に突っ伏した。

どうにでもなれ…なんてそんな心境。

吉沢君には嫌われてたし、勝手に部屋は飛び出してきたし、もうこの学校でやってけない。

今日の朝までは新しい環境にワクワクして嬉しかったのに…。

結果がこれじゃあもう何の意味もない。


「僕、学校辞めたい。」

「……馬鹿言うなよ。あと数ヶ月で卒業だぞ。」

「吉沢君に嫌われた。多分、他の皆も僕の事どんどん嫌いになる。平村君も手島君も小西君も、クラスの皆も。もう誰も信用出来ない。」


考えて、そこには絶望しかなかった。

あそこのメンバーはみんな吉沢君と仲良しだから…きっとあっという間に嫌われる。

吉沢君の周りには人が多いし、彼はクラスの中心だ。

彼らが誰に味方するかなんて分かり切ってる。

だから僕はまた、

また…ー


「俺も信用出来ねぇの?」

「……、」

「俺は金井と友達止める気ねぇぞ。嫌いになる?有り得ないな。」


僕は顔を少し上げて北原君の顔を見上げた。


「泣いても美少年。」

「…なにそれ。」

「まぁまぁ、ポジティブに生きようや美少年。俺、金井の不安を取り除く自信ムダにあるからさ。」


北原君に頭をポンポンと叩かれる。

僕は少しホッとして、さっきまでグルグルと考えていた思考をシャットダウンした。






「あ…ゴメン、電話。」


携帯が鳴り、それに出た北原君は少し話してからすぐに切った。


「小西もお前の事心配して探してたんだって。今から来るらしい。」

「ぇ…なんで?」

「それは小西も友達だからだろ。」

「…でも、そんなに話した事ないのに。」


変だ、そんなの変。

だって話したのはごく最近で、今日かってまともに会話なんて成立しなかった。

まだ友達なんて呼べる真柄じゃない。


「まさか…悲しい事言うなよ?小西はあれ、かなりお人好しの気質があるからなぁ。人に流されて意地悪するようなタチでもないし。」


僕は言葉に詰まって再び突っ伏した。

記憶に蘇るのは、掃除当番を忘れた僕に話しかけてくれたあの日の事。

勉強会に誘ってくれたあの瞬間、僕の世界は確かに変わった。

あぁ、そうだ…。

あの日からずっと…小西君は沢山笑いかけてくれた。

当たり前の幸せを沢山くれたじゃないか。



─ バンッ!!!


「金井!!大丈夫か!!!」


小西君はこうやって…

誰かの為に走れる優しい人だ。





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